2024年12月23日( 月 )

ヤマエ久野 その戦略無き生存という手法から見えるもの(後)

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定説の裏側

わくわくお買い物 イメージ    日本の問屋システムが、ウォルマートや、テスコ、カルフールといった名だたる外資小売を追い払ったというのは業界の定説だ。しかし、本当の理由は「楽しくない同質化」がお客に支持されなかったというのが正しい。スーパーマーケットだけでなく、ZARAやH&Mといった世界アパレルも、国内ではユニクロの足元にもおよばない。それも同じ理由だ。わくわく感が無ければ、多少の安さでお客は来ない。ただ、コストコだけは残った。

 コストコのやり方は異質だ。3,000坪の店に4,000アイテムの商品。商品もコストコ独自のオリジナルが多い。しかし、真の強さはそこではない。注目すべきはアマゾンと同じの「会費」というキャッシュ・コンバージョン・システムだ。コストコの会員は世界で1.1憶人を超え、年間4,000万ドル近い会員収入がそのまま利益になっている。だから、思い切った低い値入の経営ができるのである。

 世界中に2億人のプライム会員をもつアマゾンの場合は、このキャッシュ・コンバージョンがケタ違いに大きい。その額は日本円で年間2兆円を超える。商品が売れる前に現金が生まれるにも等しいこの独特な方式こそ、アマゾンの特長そのものだ。この10年、アマゾンは1,000億ドルという巨額の投資を各営業分野で実行した。

 投資は倉庫システム、ロボット事業、広告、ゲーム、配送、クラウド、リアル小売M&A、新型店舗開発と広範囲だが、とくに目立つのは、自ら100機の航空貨物機をもつだけでなく、数億の在庫と先進的な受発注システムであり、受注翌日の配送実現に限りなく近づいているオンライン・リテールに携わる従業者が26万人いることだ。この部隊はいずれ我が国の卸の世界に間違いなく攻め込む。

 アマゾン的キャッシュ・コンバージョンの威力はかつて我々も経験した。そのスタート時、強い投資意欲があっても実績のなかった誕生時の日本型GMSは、90日手形で商品を仕入れ、それを10日程度で販売し、支払期限までの「回転差資金」と呼ばれるキャッシュ・コンバージョンを手にしたのである。それを原資に土地を買い、店舗をつくって、それらを担保に金融機関からの小さくない融資を取り付け、短期間で自らの巨大化を実現した。それまでになかった革命的資金調達法だった。

 その構図がおかしくなったのは、高度成長と暮らしの豊かさがもたらした社会変化だ。店舗建設費、従業員給与など営業経費のすべてが高コスト化したのである。品ぞろえの潤沢さは在庫回転悪化を招き、キャッシュ・コンバージョンは消えた。やがて地価の暴落が始まり、経費節減という名のもとに顧客満足のための投資が止まり、多くの大手小売が消えた。時間が革命的手法を陳腐化させたということだ。現在残っている日本型大型店は、淘汰された競争相手を統合した企業と、地域限定の後発企業だけだ。いうなれば、競争相手の消えた市場で何とか生きているにすぎない。

 同じ流れはやがて卸にもやって来る。上位三社も現在のかたちで存続できるとは限らない。何に乗り換え、誰がどう運営するか、卸が抱える経営テーマは小さくはない。とくに、ラスト・ワンマイルという宅配コストの問題が、リアルにも、オンラインにも、共通するコストの軛となっている。

 卸にとって、アマゾンやコストコに匹敵するキャッシュ・コンバージョン・システム的な強力な武器を新たに手にできるかどうかが、流通新戦国時代を乗り切るためのカギなのではないだろうか。

(了)

【神戸 彲】

(中)

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