2024年12月22日( 日 )

ロシアと距離を置き始める中国・インド

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国際政治学者 和田 大樹

孤立するロシア イメージ    ウクライナでの戦闘でロシア軍の劣勢が顕著になるなか、プーチン大統領が部分的動員を発表したことで、内外で混乱が広がっている。欧州国境沿岸警備機関(Frontex)によると、9月19日から25日までの1週間にEU加盟国に移動したロシア人は6万6,000人に達し、とくにロシアに近いエストニアやフィンランドなどへの移動が目立ち、フィンランドには4日間で3万人のロシア人が流入したという。また、在ロシア米大使館は9月27日、ロシア国内に滞在する自国民に対し、出国可能な手段のあるうちにできるだけ速やかに国外へ退避するよう要請し、ロシアへの渡航も見合わせるよう呼び掛けた。

 プーチン大統領は9月下旬に行った住民投票の結果、ウクライナ東部4州を正式に編入したことを30日に発表した。昨今のプーチン大統領による一方的な行動は、同大統領自身が厳しい立場に追いやられていることの表れといえよう。一方、こういったプーチン大統領の一方的な行動が顕著になるにつれ、これまでロシア批難を避け、制裁も実施してこなかった中国やインドがロシアと距離を置く姿勢を示している。

 9月15日、上海協力機構の首脳会合に合わせるかたちで、プーチン大統領と習近平国家主席がウズベキスタンでほぼ半年ぶりに対面した。冒頭、プーチン大統領は、「この半年で世界情勢は大きく変化したが、中露の友情関係は不変だ」と発言し、習主席も「激しく変化する世界のなかで中露は大国の規範を示し、主導的役割をはたす」と互いに中露関係が重要であるとの認識を共有した。しかし、話がウクライナ問題に移ると、習主席は無言を貫き、プーチン大統領は「ウクライナ情勢をめぐる中国側の疑問や懸念を理解している。習氏のバランスの取れた中立的立場を高く評価する」と発言した。

 ウクライナ侵攻以降も、中国とロシアの関係は冷え込まず、むしろ結び付きは強まった。中国税関総署の発表によると、5月のロシアからの原油輸入量が前年同月比で55パーセント、天然ガスが54パーセントそれぞれ増加し、7月のロシアからの輸入は前年同月比で5割あまり増加したという。軍事・安全保障面でも、ロシア軍は9月1日から7日にかけ、日本海やオホーツク海など極東海域で大規模な軍事演習「ボストーク2022」を行ったが、中国軍もそれに参加した。両軍は海上通信・海上経済活動エリアの防衛訓練、機関銃の射撃演習などを共に行った。

 そのような中、ウズベキスタンでの会合は中露の間で食い違いが露呈する初めての場となった。ウクライナ侵攻は、習主席が偉大な成功を掲げる北京オリンピックとパラリンピックの間に発生したことから、習主席からするとすでにこの時点でロシアに対して疑念があったかもしれないが、同会合は今後の中露共闘を注視していくうえで1つのトリガーになった。

 また、ロシアの伝統的友好国であるインドもプーチン大統領への不満を強めている。インドのモディ首相は9月上旬に極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムでプーチン大統領と会談し、「今は戦争や紛争の時代ではない」とウクライナ侵攻を直接批判した。

 モディ首相は習主席より明確にプーチン大統領を批判したわけだが、インドは日米豪との間で自由で開かれたインド太平洋の実現を目指すクアッドを形成しており、欧米側との間で難しい舵取りを余儀なくされている。ウクライナ侵攻をめぐり、インドがロシア非難を避けることにバイデン大統領が春に不満を示したこともある。また、9月、インドのジャイシャンカル外相もウクライナ侵攻によって物価高やインフレが生じたと不快感を示した。ジャイシャンカル外相はロシアを名指しで批判したわけではないが、この発言はプーチン政権を間接的にも批判したことになる。

 冒頭で述べたように、プーチン大統領の最近の行動は暴走とも取れる。こういった行動がエスカレートすればするほど、中国やインドのロシア離れ、もっといえばプーチン離れが一層進むことになろう。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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