得意分野に特化した新業態開発 ドンキのスピンアウト戦略の成否は？（後）

過去の新業態は失敗の連続

　ドンキにはさまざまな業態にチャレンジしてきた歴史がある。01年に小型店業態店舗展開に着手、約300m²規模でドンキのサテライトショップとしての機能も担う「ピカソ」1号店を横浜市にオープンした。ドンキに比べ、商品のカテゴリーはほぼ同じだが、面積に合わせて取扱アイテムを厳選し、地域のデイリーユースに対応する地域密着型の店舗となっている。小さい売り場でもショッピングが楽しめるよう、従来の「圧縮陳列」の手法にさらに磨きをかけ、「超・圧縮陳列」を目指し、天井から床まで、フロア全体を陳列スペースとして、商品の山を築き上げている。多店舗化を目指したものの、現在も13店舗と少ない。

　06年には厨房を設けて総菜・弁当を店内調理して提供するコンビニ業態「パワーコンビニ情熱空間」を開発、1,000店舗を目標に出店したが3年間で6店舗と惨敗、撤退を余儀なくされた。

　11年からは、都市型小型店舗の新フォーマットとして「ドン・キホーテエッセンス」の店舗展開を開始した。ドラッグストア、食品スーパー、コンビニエンスストアのそれぞれのエッセンスを集約した都市型・驚安ライフコンビニを追求し、既存店舗でニーズがとくに高いデイリー商品を展開している。600～1,000m²前後の売り場には、食品をはじめ、医薬品、化粧品、日用消耗品、健康食品、エクササイズ用品、美容家電、インナーウエア、キッチン用品などを展開し、品ぞろえは幅広い。東京・池袋など繁華街にも出店したが、現在は首都圏の2店舗にとどまっている。

　15年には、グループ企業の（株）ライラックが東京都福生市に「驚安堂」をオープン、ディスカウントスーパーマーケット事業に乗り出した。小商圏を対象に、日常生活ニーズに対応し、ローコストオペレーションで店舗を運営し、低価格を追求した店舗を目指したが、現在は首都圏の3店舗しかない。

　いずれの業態も結果を出せていないのが現状で、あえていえば失敗の連続。それにもかかわらず、カテゴリーに特化した新業態にチャレンジするのは、主力業態の「ドン・キホーテ」および「MEGAドン・キホーテ」の出店余地が狭くなり、次代に向けた成長エンジンを模索するためだ。従来の新業態はミニドンキ的な性格が色濃かったが、今回は菓子、酒、コスメといった得意とするカテゴリーで分け、深掘りして専門業態に仕上げることでドンキの強みを全面的に打ち出した。店づくりはワクワクドキドキのアミューズメント性をアピールするドンキの従来の手法を踏襲しながら、SNSなど新たなコミュニケーションツールに対応した店づくりに取り組んでいる。

同じ総合業態のイオンと対照的な業態開発

　ドンキは食品から日用品、医薬品、コスメ、バラエティー雑貨、衣料品などさまざまなジャンルを取り扱う総合業態。同じ総合業態であるGMS（総合スーパー）の凋落とは対照的に、ディスカウントとアミューズメント性で成長を遂げてきた。

　そのGMSでは、イオンリテールが売り場を専門化することで業態を再生し、「イオンバイク」「イオンリカー」「キッズリパブリック」といった専門店として分社化し、多店舗展開を行っている。イオンリテールが品ぞろえを深掘りすることで弱かった売り場を強化したのに対し、ドンキはもともと強みをもっていたカテゴリーを切り離して専門店の展開を始めており、対照的だ。ただ、「驚辛ドンキ」のようにうまくいっていないものもあり、そのほかの業態も成功が約束されているわけではない。

　新業態の開発は、小売業にとってはメーカーの研究開発と同じで、企業が成長していくためには欠かせない。すべてが成功するわけではなく、数多くの失敗を重ねて、再度チャレンジしていくのが常で、そのなかから次代を担う柱が生まれてくる。

　ドンキのカテゴリーを特化した新業態も現時点では未知数で海のものとも山のものともつかない状況だ。しかし、実験・検証を重ねて手を入れてフォーマットが確立できれば、大化けする可能性もある。

　今までのドンキの新業態開発は失敗の歴史だったが、今回は成功の予感も感じさせるチャレンジのように思える。最も可能性が高いのは「コスメドンキ」で、その答えは遠からず明らかになるだろう。

（了）

【西川　立一】