2024年07月16日( 火 )

米中露対立を冷戦になぞらえる第三諸国

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国際政治学者 和田 大樹

国連イメージ    今年も9月、国連総会では加盟国の指導者たちがそれぞれ自らの主張を行う一般討論演説が行われた。筆者もできる限り多くの国の主張を聴いてきたのだが、そこには大きく3つ主張があったように思う。1つ目は、ロシアによるウクライナ侵攻により、欧米や日本など自由民主主義国家によるロシアを非難する声で、これについてはすでにメディアで報じられていることだ。2つ目は、ロシアや中国など欧米に対抗する声だ。ロシアは自らを非難する欧米に対して報復的非難を行い、中国は台湾が不可分の領土だと自らの正当性をアピールした。そして、中小国のなかにはこういった問題について沈黙を貫く国も少なくなかった。こういった中小国は欧米に対抗する姿勢は示していないが、一帯一路による経済援助によって中国にものをいえない事情もあると考えられるので、とりあえずここに分類しておく。

 そして、今回筆者が最も印象的だったのは、1つ目でも2つ目でもない3つ目の声だ。それは、欧米や中国、ロシアなどどの大国の陣営にも属さない、もっといえば、米中露など大国間対立に巻き込まれたくない、大国間対立をかつての冷戦のようになぞらえる第三諸国の不満、懸念だ。たとえば今回の一般討論演説で、セネガル大統領でアフリカ連合(AU)の議長でもあるサル氏は9月20日、「アフリカを新たな冷戦の温床にすべきではない」と発言した。冷戦時、アンゴラ内戦などアフリカが米ソによる代理戦争の場になったことは記憶に濃い。また、インドネシアのルトノ外相も9月26日、「ASEANが新冷戦の駒になることを拒否する」との見解を示し、第2次世界大戦勃発までの動きと現在の対立プロセスが似通っており、世界が間違った方向に進んでいると警告した。演説中、ルトノ外相はベトナム戦争を思い出していたのかも知れない。

 こういった声は、今年の演説で初めて明らかになったわけではない。最近でも、秋にG20を主催するインドネシアのジョコ大統領は今年6月、欧米がロシアの参加を拒むよう圧力やけん制を強めるなか、ロシアを孤立させるべきではないとの認識を示し、プーチン大統領を招待すると発表した。また、2020年2月、ケニアのウフル・ケニヤッタ元大統領は米国シンクタンクでの講演の際、アフリカ地域が米中大国間競争の主戦場になることへ強い懸念を示し、アフリカ各国の選択する自由と権利を強調し、米中などに対してアフリカの自主性を尊重するよう求めた。

 ASEANやアフリカ、中南米などには近年目覚ましい経済発展を遂げる国々が少なくない。そしてこういった国々では今後大幅な人口増が見込まれ、大国経済にとっても魅力的なフロンティアになっている。経済発展を遂げる第三諸国は近年、経済発展にともなって国際的な自信もつけているが、ウクライナ侵攻や台湾有事のような大国間による争いが自国の発展にとって大きな阻害要因になることを懸念している。ウクライナ侵攻によって拍車がかかった今年の世界的な物価高パンデミックはまさに途上国を襲った。ペルーやスリランカのように、それによって抗議デモや暴動が激化し、治安が悪化した国もある。大国間競争が激化すればするほど、こういった“グローバルサウス”の声がいっそう拡大することだろう。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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