エイチ・アイ・エス、澤田秀雄氏は再起なるか ハウステンボス売却、1億円減資に続く、次なる一手は? (後)
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旅行大手エイチ・アイ・エスは9月30日、長崎県佐世保市の大型リゾート施設「ハウステンボス」の全株式を香港の投資会社PAGに666億円で売却した。さらに、247億円の資本金を1億円に減資する。虎の子のハウステンボスの売却と減資のセットで累積赤字を一掃して再建を図る。再起の方向を占ってみよう。
247億円の資本金を1億円に減資する狙い
コロナ禍で生じた赤字を一掃する切り札は、虎の子のハウステンボスの売却とセットが減資だ。減資は10月27日に開く臨時株主総会で決議する。
21年11月から12月にかけて3回増資しており、現在の資本金247億円を1億円に減資。資本準備金も173億円減らし2,500万円にする。減資した全額を繰越利益剰余金の欠損補てんに充てる。
HISはコロナ禍での海外旅行需要の急減で、20年10月期250億円、21年同期は500億円もの赤字を計上。今期に入っても第3四半期(21年11月~22年7月)の最終損失が同期最大の332億円に、利益剰余金は107億円のマイナスとなった。
資本金を1億円にする最大の狙いは、ハウステンボスの売却益666億円を活用できることだ。
資本金を1億円とすれば税制上の中小企業になり、税負担の軽減につながる。それ以上に大きいのは、繰越欠損金の処理。資本金が1億円超の場合、繰越欠損金をすべて相殺できるわけではない。それが、資本金1億円以下の中小企業になると、利益をすべて繰越欠損金と相殺できる。減資はハウステンボスの売却益で繰越欠損を一掃する妙案なのだ。
旅行大手の減資は、21年の(株)JTBと(株)日本旅行、今年7月末の近畿日本ツーリスト(株)を傘下にもつKNT-CTホールディングス(株)に続く措置。HISは、ハウステンボスの売却とのセットで打ち出したのがミソである。
HISが再建の柱に据える次世代太陽電池の新工場
ポストコロナ時代のHISの経営は、どこへ向かうのか。澤田氏は前出の西日本新聞のインタビューで、ハウステンボスの売却で得られた資金を活用し、HISの立て直しを誓っている。引用する。
起業家としての意欲が衰えることはない。HTBで培った環境経営の理念を生かし、かねて事業化を狙ってきた次世代型太陽光パネルの国内生産に乗り出す考えだ。
「超薄型の太陽光パネルを今までの3分の1の値段でつくれる。佐世保市を含む複数の工場候補地を検討している。製造したパネルは国内だけでなく、アジア全域で販売する計画だ。これはビッグビジネスになる」太陽電池で圧倒的なシェアを握る中国勢に挑む最後の大勝負
コロナ禍に陥る前、澤田氏は次世代太陽電池の新工場の建設計画を打ち出していた。「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」と呼ばれる種類。特殊な結晶構造の原料をフイルムなどに塗布してつくる方式で、軽量で折り曲げやすい。シリコン製より生産にかかるエルギー効率が4~8倍高く、生産コストの大幅に下げられる。ハウステンボスのある佐世保市に工場を建設するとぶち上げていた。
コロナ禍での経営悪化で、新工場建設計画は延期していた。HISが出資するポーランドのサウレ・テクノロージズは21年5月にPSCの生産工場を完成させた。HISは日本、アジアでの販売権を保持しており、HISは再生の目玉としてPSCの量産工場を建設する。
ただ、太陽電池は現在、シリコン製のタイプが主流を占め、官民上げて大規模投資した中国勢にシェアを奪われた。中国勢もPSCに着目し、大型投資に動いている。
PSCを含む次世代太陽電池の世界市場は50年に5兆円と試算されている。この巨大かつ中国勢との激しい競争が見込まれる市場に、HISは挑む。起業家精神が衰えを知らない澤田秀雄氏の最後の大勝負になる。
(了)
【森村 和男】
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