西九州新幹線の開業後に期待される効果と課題(前)
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運輸評論家 堀内 重人
2022年9月23日、州新幹線の西九州ルートのうち武雄温泉~長崎間の69.6kmが、フル規格の新幹線として先行開業した。
武雄温泉~長崎間の開業は、西九州新幹線の「暫定開業」という位置付け。武雄温泉以東への延伸は佐賀県との議論が進まず、現時点で未定であるという問題以外に、並行在来線は20年間JR九州が運営することになるが、活性化が課題である。
それ以外ににも、島原鉄道は、西九州新幹線の開業により諫早駅に大規模な駐車場が整備されることで、従来は沿線から自社の鉄道で諫早駅へきて、そこから特急「かもめ」を利用していた乗客が、自家用車で諫早駅へ行く可能性が高いとして危機感をもっている。
また佐賀県~長崎間に跨って走る松浦鉄道は、すでに減便を実施している。松浦鉄道の起点が有田であるため、西九州新幹線とは接続していない上、武雄温泉駅にも大規模な駐車場が整備されることから、松浦鉄道で有田まできて、そこで特急「みどり」に乗り換えていた人が、自家用車で武雄温泉まで行くことを想定した処置である。
西九州新幹線が建設された経緯
1972年12月12日、全国新幹線鉄道整備法第4条第1項の規定による『建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画』(昭和47年運輸省告示第466号)により告示され、1973年11月13日に5路線の整備計画が決定された。九州新幹線は、そのうちの1つである。
九州新幹線のなかでも、西九州新幹線は整備計画が決定してからも、ルートや整備方式だけでなく、佐賀県の費用負担をめぐってさまざまな曲折があった。ルートに関しては、整備新幹線計画が決定した当時、「原子力船むつ」が試験運航を行っていたところ、放射能漏れの事故を起こし、海上自衛隊がある佐世保で、修理をするか否かで揉めたという事件があった。
国は、この件での佐世保への配慮もあり、現在のルートよりも佐世保に近い、早岐寄りのルートを示していたが、1987年に国鉄が分割民営化され、JR九州が発足すると、所要時間の点からほぼ現在のルートとなった。
整備方式に関しては、かつて国が武雄温泉から長崎間は、在来線と同じ1,067mmゲージで建設を行い、最高速度200km/h運転が可能な「スーパー特急方式」を提案しており、武雄温泉~博多間は、在来線で運行する考えであった。
ところが「スーパー特急方式」を前提に、2008年に武雄温泉~諫早間の工事に着手したところ、地元から「フル規格新幹線」への要望が強くなり、武雄温泉~長崎間は「フル規格新幹線」で建設されることになった。
武雄温泉~諫早間が着工された要因として、並行在来線問題が解決したことが挙げられる。西九州新幹線が開業すると、江北(当時は肥前山口)~諫早間は並行在来線となり、JR九州から経営分離しても良くなった。
地元としては、新幹線などの高規格鉄道は欲しいが、赤字必至の並行在来線を、第三セクター鉄道というかたちで、引き受けさせられたくない。
並行在来線の問題に関しては、上下分離経営が採用されたことで、インフラ設備は佐賀県と長崎県が出資した第三セクターが所有することになった。そしてJR九州が、第二種鉄道事業者として20年間運営することになった。
その後、新鳥栖~武雄温泉間は在来線を活用し、1,067mmゲージの在来線と1,435mmゲージの新幹線という、ゲージ幅が異なる区間を直通運転が可能なフリーゲージトレインを導入する方針が決定された。その結果、2012年に諫早~長崎間も、フル規格新幹線として着工され、武雄温泉~長崎間は2022年9月23日に開業した(写真1)。
だが当初は予定されていたフリーゲージトレインは技術的な観点から開発が難航し、さまざまな問題点が解決されなかった。そこで2022年9月23日の西九州新幹線の暫定開業の時点では、武雄温泉駅で在来線特急の「かもめリレー号」と新幹線を、対面乗り換えで乗り継ぐリレー方式が採用された(写真2)。
JR九州は、車両や保守費用が割高かつ度重なる改良にも関わらず、軌道への負荷が過大であるなどの問題の解決に見通しがつかないフリーゲージトレインの導入を断念し、全線フル規格での建設を求める方針を示した。
そうなると問題となるのが、武雄温泉~新鳥栖間である。佐賀県は、フル規格新幹線だけでなく、「ミニ新幹線」にも反対の方針であり、フリーゲージトレインによる武雄温泉~新鳥栖間の整備を望んでいる。
フル規格新幹線では、武雄温泉~新鳥栖間だけでなく、新鳥栖~鳥栖間も並行在来線として扱われ、JR九州から切り離されることを恐れている。
ミニ新幹線では並行在来線問題は生じないが、工事期間中は列車の運行ができないため、バスによる代替輸送となることや、博多~佐世保・ハウステンボス間の旅客輸送を代替するための路線がないことが挙げられる。また鳥栖~鍋島間には、貨物列車も運転されており、貨物輸送をどうするのか、という問題も生じるから、フリーゲージトレインにこだわっている。
(つづく)
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