西九州新幹線の開業後に期待される効果と課題(後)
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運輸評論家 堀内 重人
2022年9月23日、州新幹線の西九州ルートのうち武雄温泉~長崎間の69.6kmが、フル規格の新幹線として先行開業した。
武雄温泉~長崎間の開業は、西九州新幹線の「暫定開業」という位置付け。武雄温泉以東への延伸は佐賀県との議論が進まず、現時点で未定であるという問題以外に、並行在来線は20年間JR九州が運営することになるが、活性化が課題である。
整備効果
武雄温泉~長崎間が、2022年9月23日にフル規格の新幹線として先行開業した。開業後の所要時間は、武雄温泉~長崎間が最速で23分であり、各駅停車タイプでも31分で結ばれる(写真3)。結果として、博多~長崎間の所要時間が約30分短縮されて、最速列車で1時間20分になる。
懸念されていた武雄温泉駅の在来線の「かもめリレー号」とフル規格新幹線の「かもめ」が、対面乗り換えで3分の乗り継ぎであるが、円滑な乗り継ぎが実現している。
一方の熊本~長崎間では、新鳥栖と武雄温泉で2度の乗り換えを強いられるが、従来の1時間57分から約30分短縮され、1時間22分になった。
武雄温泉~長崎間が開業する前の予想であるが、佐賀県・長崎県と福岡県の交流人口が224,600人/日から1%増えて226,500人に、佐賀県・長崎県と熊本県・鹿児島県の交流人口が14,400人/日あったが、これも1%増えて14,500人/日になると予想されていた。
九州は、博多・天神が経済・文化の中心であるから、他の県から福岡県に対する流動が主となるため、佐賀県・長崎県と熊本県・鹿児島県との間の交流人口は、それほど多くないと考えていたが、それでも14,400人/日もあり、筆者は驚いた。熊本県の場合、天草地方から船で長崎県に入る流動もあるため、それも影響していると感じている。
佐賀県・長崎県と近畿圏の交流人口が13,900人/日あったが、これが30%増えて15,400人/日になると予測された件に関しては、航空機、バスから新幹線に旅客が転移することが考えられる。そうすることで、鉄道の利用者が増えるだけでなく、地球温暖化の原因といわれるCO2が年間で23,000tの排出量が削減されることが期待されている。
西九州新幹線が開業する沿線などでは、その恩恵を少しでも享受したく、各種観光イベントが開催されたり、観光客の誘致が行われるなど、今後に期待したいところである。
今後の課題
武雄温泉~新鳥栖間に関しては、佐賀県がフル規格新幹線やミニ新幹線に反対しているため、しばらくは武雄温泉~長崎間の暫定開業というかたちになる。それゆえ所要時間の短縮も30分程度であるだけでなく、博多へ直通していないことから、山陽新幹線の利用者にとれば、乗り換えを強いられている。
筆者は、武雄温泉~新鳥栖間はフル規格の新幹線以外は考えられないと思うが、並行在来線をJR九州が運営する方法を、模索する必要性も痛感している。
政府や佐賀県は、旅客輸送にしか眼なかになく、貨物輸送を無視していると言わざるを得ない。鍋島までは貨物列車が運転されており、武雄温泉~鳥栖間が並行在来線としてJR九州から切り離されるようになれば、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、並行在来線を運行する事業者に対し、「貨物調整金」を支給する必要性が生じる。
武雄温泉~鳥栖間は、佐賀県の県庁所在地の佐賀市があるだけでなく、鳥栖市も佐賀県であることから、通勤・通学需要も多くある。例え武雄温泉~新鳥栖間が、フル規格の新幹線として開業したとしても、長崎本線の江北~長崎間よりも、旅客輸送量ははるかに多い。
江北~長崎間は、佐賀県・長崎県がインフラを保有する会社を設立するかたちで、運行はJR九州が引き受けるかたちで上下分離経営が実施されたが、武雄温泉~鳥栖間でも、上下分離経営を実施するとなれば、佐賀県の負担も増えることになる。筆者は、博多~ハウステンボス間に特急「ハウステンボス」、博多~佐世保間に特急「みどり」が、運転されていることに着目している。ハウステンボスは、非現実的な旅を目的としたテーマパークでもあることから、例え西九州新幹線がフル規格の新幹線として、博多まで開業したとしても、乗り換えを強いられる上、ビジネスライクな新幹線よりも、博多から観光に特化した豪華な観光特急で行きたいという需要は、存在する筈である。
それゆえ博多~ハウステンボス間に、観光特急を1日当たり4往復程度、設定するのが望ましいと考える。
また現在、「みどり」は早岐で分割併合して佐世保へ向かっているが、西九州新幹線がフル規格で全線開業した後も、「ハウステンボス」に博多~早岐まで併結されて、運転が継続されることが望ましい。有田、早岐、佐世保も、西九州新幹線が全線でフル規格で開業したとしても、武雄温泉で乗り換えを強いられるため、所要時間の短縮効果は、20分程度となる。それであれば4往復程度、「みどり」も存続させることで、JR九州は武雄温泉~鳥栖間を、上下一体で経営することが可能となる。
それ以外に、島原鉄道や松浦鉄道を活性化させる施策を提案したい。島原鉄道は、諫早駅に大規模な駐車場が整備されたため、諫早駅まで自家用車できて、新幹線に乗り換える人が増えることに危機感をもっている。対博多だけで考えるのではなく、対長崎という視点で見れば、長崎本線へ乗り入れて、長崎直通というかたちで活路を見出したい。長崎本線の特急列車が廃止されたため、島原鉄道からの列車を乗り入れるだけのゆとりが生じた。
JR九州にとれば、諫早~長崎間の長崎本線を使用してもらえれば、自社の収入となる利点がある。島原鉄道の気動車も馬力が強いため、運転上の支障は生じないから、双方に利点がある。
松浦鉄道は、コロナ禍もあって減便を実施したが、有田止まりの列車を武雄温泉まで乗り入れるようになれば、JR九州と松浦鉄道の両方に利点がある。
島原鉄道とJR九州への直通や、松浦鉄道とJR九州への直通は、ダイヤの調整以外に、保安装置や乗務員の訓練などで課題や調整が必要になるため、直ぐの実施は難しいかもしれないが、それが実現することで、JR九州、島原鉄道・松浦鉄道だけでなく、利用者にも利点となることから、早期の実現を望みたい。
(了)
法人名
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