海洋プランクトンは絶滅の危機:海からの贈り物を大切に
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、10月14日付の記事を紹介する。10月16日から中国では5年に1度の共産党大会が開催されます(メルマガ発刊は14日)。習近平国家主席はその場で3期目の政権を発足させることになるはず。李克強首相の処遇を含め、人事の若返りがどこまで実現するのか、はたまた今後の中国の動向も大いに気になるところです。一方、本年は日中国交正常化50周年ということで、両国において祝賀行事が五月雨式に営まれていますが、いずれも盛り上がりには欠けていると言わざるを得ません。
その最大の原因は中国による海洋進出、とくに東シナ海や南シナ海における軍事拠点化でしょう。小さな岩礁を島に造成するのは技術的には大変なことです。その意味では中国の技術力に世界が驚嘆しており、イスラエルでは中国に海底資源掘削のリグ造りを依頼しているほどです。とはいえ、そうした資源開発は海洋汚染や環境破壊をもたらしています。
このところ地球環境問題は深刻化する一方です。我々の住む地球は海のお蔭で「青い惑星」とも呼ばれてきました。人類そのものも海から誕生したとされているほどです。ところが、その海が危機的な状況に陥っています。世界の気象ならびに環境専門家によれば、海洋プランクトンが絶滅の危機に瀕しているというのです。このような状況が続けば、「海からの贈り物」を味わうことはできなくなるでしょう。
なぜなら、魚介類の食糧である海洋プランクトンがなくなれば、海洋生物は生き残れなくなるからです。必然的に、我々人類も生存が危ぶまれることになりかねません。近年、日本近海でも魚介類の水揚げが急速に減少しています。こうした事態を引き起こしているのは我々人間です。
地球温暖化を含めて、ゴミや汚染物質を平気で海に投棄してきたのですから。2023年春には、福島の原発事故で発生した放射能汚染水まで希釈したうえで太平洋に放出することを日本政府は決めました。実に恐ろしいことです。
ほかにも恐ろしい事態は静かに進行しています。たとえば、日中間の「のどに刺さったトゲ」のような尖閣諸島問題にも、最近は新たなスポットライトが当たり始めました。何かといえば、“漂着ゴミ”問題です。この種の海洋汚染を放置すれば、周辺海域の環境が著しく悪化する可能性が高くなります。このことが、2022年1月末から2月頭にかけて行われた海洋調査によって明らかになりました。
この調査は沖縄県石垣市の委託を受け、東海大学海洋学部の山田吉彦教授らが同大学所有の海洋調査研修船『望星丸』を利用して行ったものです。10年ぶりの尖閣調査でしたが、その結果、離島周辺の生物や漂流ゴミの実態が明らかにされました。当初は島への上陸調査を計画していましたが、所有者である国の許可が下りず、海洋調査のみが行われた次第です。
この問題は日本の国会でも取り上げられました。参議院の予算委員会で答弁に立った山口壮環境大臣(当時)は「海岸に漂着したゴミは、良好な景観あるいは海洋環境に悪影響をおよぼすことから、海岸漂着物処理推進法に基づき、海岸管理者がその処理のために必要な措置を講じること、あるいは土地の占有者が清潔の保持に努めること、とされている」と説明しました。
さらに、同大臣は「尖閣諸島に関しては、この海岸法に基づく海岸管理者が定められていない。現状では海上保安庁、財務省、防衛省が占有する土地となっている。その意味で、尖閣諸島における漂着ゴミを回収するためには上陸しなくてはならないが、この尖閣諸島および周辺海域の安定的な維持管理という目的のため、原則として政府関係者を除き何人も上陸を認めないという政府方針を踏まえなければならない」と発言しました。
同席していた岸田首相も「環境大臣が答えた政府の方針に基づき、政府としての取り組みについて考えていきたい」と曖昧な補足説明をするだけでした。要は、尖閣諸島における漂着ゴミの処理に関しては、具体的な対応策は未定というわけです。日本には海洋ゴミの回収、処理に関する技術の蓄積があるにもかかわらず、これでは「宝の持ち腐れ」と言っても過言ではありません。
というのも、この尖閣諸島問題はゴミ問題に飲み込まれようとしている以前に、日中間の領土問題化しており、日本政府としても政治的に慎重な対応を余儀なくされているからです。日本がゴミ処理との名目で上陸するとなれば、中国政府の反発も予想されます。最悪の場合、中国が尖閣諸島を台湾の一部である自国領としていることから、日本の尖閣諸島上陸や周辺海域でのゴミ処理活動を内政干渉や領土侵攻であると見なし、中国側の武力行使の口実にされかねない恐れもあるでしょう。
その意味でも、「尖閣諸島の海洋ゴミ問題の解決」や「海洋資源開発」を進めるには、日中双方が英知と技術を持ち寄り、共同戦線を張るなど平和的知恵を使うことが求められます。元を正せば、島々も海洋資源も中国や日本が生み出したものではなく、地球という生命体が生み出した自然の産物、いわば人類の共通財産です。そうした地球上の環境を守り、貴重な資源を有効活用するうえで、日中間の相互理解と協力関係が構築されれば、世界のモデルとなるに違いありません。
琉球の大交易時代に遡れば、尖閣諸島が琉球と中国の交易のための島として存在していたことに思い至るはずです。そうした歴史的理解に立てば、安全保障の観点とは別の、自然を守る「海の外交」という可能性を追求すべきと思えます。我々の健康を維持するためにも「海からの贈り物」は欠かせません。
今こそ、日中両国が国際社会に訴え、あらゆる英知と技術を結集し、海洋環境の保護に取り組む時ではないでしょうか。そうした新たな環境保全政策を打ち出せば、世界全体にとっても朗報となるはずです。岸田総理にも習近平国家主席にももっともっと海に目を向けて欲しいと思います。
次号「第314回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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