2024年12月23日( 月 )

自主回収から4年、『茶のしずく』問題を振り返る(5)

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『茶のしずく事件』で行政・医療機関が改善策

 『茶のしずく』石けんによるアレルギー事件は、皮膚や粘膜から小麦成分が入り込み、小麦アレルギー症状を誘発するという新たなアレルギー症状を生み出し、アレルギーの怖さを行政や医療機関、業界に知らしめる結果となった。原告と被告が係争しているなか、この事件を教訓として、行政や医療機関ではさまざまな取り組みが行われてきた。

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消費者庁が入っているビル

 消費者庁は、『茶のしずく』事件で厚労省が「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品」への注意喚起を公表する9カ月前の2010年1月、(独)国民生活センターから6件の『茶のしずく』石けんによる小麦アレルギーの症例報告を受けていた。(株)悠香が自主回収を発表する約1年4カ月前の初期情報であり、ここで消費者庁が適切な対応を取っていれば、被害の拡大を防げたかもしれなかった。この点はマスコミからの批判もあり、消費者庁は本誌の取材に対し、「10年1月に受けた報告は担当者レベルの情報で、組織として対応できていなかった可能性がある」と答えている(IB本誌・11年12月19日号掲載)。

 消費者庁はこの反省を踏まえ、消費者庁に寄せられる生命・身体被害情報を適切に処理するための「入手情報点検チーム」(12人で構成)を11年11月に設置した。同チームが対応する項目の1つに、「広く認知されていないアレルギー」が盛り込まれ、些細なアレルギー情報も拾い上げる体制を整備した。12年5月には「コチニール色素」のアレルギー情報について注意喚起するなど、一定の成果を上げている。

 食物アレルギーに関する行政機関の動きは、ほかにもあった。消費者庁は13年9月、アレルギー表示制度の表示推奨品目にゴマとカシューナッツを追加する通知を出した。この2品目は、消費者庁による食物アレルギーに関する調査で、発症原因の上位品目でありながら、アレルギー表示制度でカバーできていなかった。

 また、国センは13年12月、カバノキ科花粉症患者の豆乳摂取などによるアレルギー症状について、注意喚起した。PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)には、カバノキ科花粉症患者が豆乳などを摂取してアレルギー症状を発症した症例が08年以降の約5年間で15件寄せられていたため、国センは消費者に向けて注意喚起した。『茶のしずく』事件を契機に、消費者行政のアレルギー情報への対応は強化されている。

 厚労省は前述の通り、『茶のしずく』事件を教訓として、医薬部外品と化粧品の副作用報告制度を改訂した。
 医療業界を見ると、日本アレルギー学会や日本皮膚科学学会などで、『茶のしずく』石けんによる小麦アレルギーの研究結果が多数発表された。これにより、皮膚や粘膜から感作する新種の小麦アレルギーの情報や診断基準、治療法などが臨床の現場で知られるようになった。

 特別委員会の松永佳世子委員長は、日本皮膚科学総会の市民公開講座で、「『茶のしずく』事件は、企業、医師、行政、消費者にとっても学ぶことが多かった。化粧品には絶対に安全なものはなく、必ずリスクがあるということがわかったと思う」と語った。また、「(『茶のしずく』事件では)日本アレルギー学会、日本皮膚科学会などが協力してできた症例情報のネットワークが機能した。このネットワークはロドデノールによる白斑問題の特別委員会設置に役立った」と話した。

 『茶のしずく』石けんの損害賠償訴訟はなかなか決着がつかないが、この間、行政機関などでは『茶のしずく』事件を教訓としたさまざまな取り組みが行われてきた。

 

(つづく)
【山本 剛資】

 
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