2024年11月23日( 土 )

国民の納得できる説明がないなら議員辞職せよ

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 自民党の井上貴博衆院議員(福岡1区)に自民党本部から支部を通じて交付された選挙関係費1,300万円が、同氏の選挙運動費用の収支報告書に記載されていなかった問題は、公職選挙法の虚偽記載に該当するだけにとどまらない。1,300万円もの大金が記載されていなかったことへの井上議員側の弁明は一貫しておらず、新たな疑惑も浮上する。原資は政党助成金という国民の税金であり、ことは選挙運動に使ったお金である。井上議員は会計帳簿を公開し、国民が納得できる説明をすべきだ。

訂正で済む話ではない

上脇博之・神戸学院大学法学部教授<

上脇博之・神戸学院大学法学部教授

 「井上議員側は、故意ではないと言っているようだが、故意としか言いようがない」。
 憤然と語るのは、選挙制度と政治資金に詳しい上脇博之・神戸学院大学法学部教授だ。明らかに公職選挙法が禁じた虚偽記載だが、問題はそれにとどまらないと言う。

 1つ目の問題は、普通なら間違うことはあり得ないことだ。
 今回明らかになった「消えた1,300万円」は、2012年12月10日、自民本部から同党福岡県第一選挙区支部に1,300万円の交付金が選挙関係費として支給され、同日、同支部が井上氏個人に1,300万円全額を寄付していながら、井上陣営の選挙運動費用の収支報告書には記載がなく、こつ然と消えてしまったものだ。ちょうど、同年12月4日告示された衆院選挙の真っ最中の出来事である。
 井上陣営の「選挙運動費用収支報告書」に記載されていた収入は約765万円。同年11月29日の「自己資金750万円」のほかに、「146,405円」の収入があるだけで、党からの交付金1,300万円の記載がなかった。報告書によれば、事実上、収支の差額はゼロとなっていた。
 しかも、井上事務所は、当初、ニュースサイト「HUNTER」の取材に対し、1,300万円を「通帳に残して管理してきた」としていたが、その後のマスコミ報道では、自己資金との差額の約535万円を「現金で保管していた」と説明が変転した。

 1,300万円もの大金の虚偽記載に、合理的な説明がされていない。説明が合理的でないどころか、井上議員側が説明する「計上するのを怠っていた」というような単純ミスは、常識的には起こらない。

 上脇教授は、数多くの政治資金疑惑を調査してきた経験から、今回のケースを「異常だ」と指摘する。
 「選挙運動費用の収支報告書では、事実上お金が1円も残っていないのに、もし1,300万円という高額が通帳に残っていたとか、約535万円が現金で手元に残っていたというのが本当ならば、寄付の明細書や会計帳簿が収支報告書と整合しないので常識的には収支が合っていないのに気付くはずで、間違いようがない。訂正で済む話ではない」。
 つまり、故意に収入を記載しなかったと見るのが常識である。

記載しなかったのは収入だけなのか

 次に生じる疑惑は、記載しなかったのは本当に収入だけだったのか、という問題だ。
 「通帳で管理」から「現金保管」に変わった説明自体も不自然だ。預貯金口座に1,300万円入っていたという説明では、何かまずいことが生じるので、井上議員にとって都合の良い説明に変えたと見られて仕方がない。

 「普通に考えたら、1,300万円を何に使ったのか報告できないような支出があるから、収入自体を記載せず、辻褄を合わせた可能性がある。選挙で事実上裏金になっていた可能性もある。本当に残っていたのなら、政党助成金を井上氏個人の懐に入れていたと疑われてもおかしくない。井上議員は真相を説明すべきだ」と、上脇教授は言う。

会計帳簿をはじめ、一切合財を公開せよ

 政治資金自体に透明性が求められるうえ、今回のお金は選挙運動の費用である。
 上脇教授は、井上議員が公職選挙法185条の義務付ける会計帳簿を公開して説明責任を果たすべきだと指摘する。
 公職選挙法185条は、会計帳簿を備え、選挙運動に関するすべての収入支出を会計帳簿に記載するように義務付けている。

第185条 出納責任者は、会計帳簿を備え、左の各号に掲げる事項を記載しなければならない。
1 選挙運動に関するすべての寄附及びその他の収入(公職の候補者のために公職の候補者又は出納責任者と意思を通じてなされた寄附を含む。)
2 前号の寄附をした者の氏名、住所及び職業並びに寄附の金額(金銭以外の財産上の利益については時価に見積った金額。以下同じ。)及び年月日
(以下略)

 収入約765万円が井上氏個人の自己資金というなら、その領収書もあるはずである。党からの交付金1,300万円がどう取り扱われていたのか、井上議員側が説明するように、自己資金約765万円が立て替えだったのかどうか。選挙運動で井上陣営に、どのようなお金の出入りがあったのか。会計帳簿や通帳、領収書など一切合財を公開して、国民が納得する説明をする義務が井上議員にはある。

 衆議院が議決した「政治倫理綱領」は、「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない」と定めている。
 ましてや今回は、政治資金一般ではなく、疑惑を持たれているお金は選挙のお金である。
 憲法は、主権者は国民と定めている。国民が、正当に選ばれた国会議員を通じて、主権を行使するものだ。選挙運動で使われたお金が公正でなければ、選挙が単なる「飾り」となり、国民の主権行使は形骸化する。

 「選挙のお金なので、井上議員が、国民が納得できる説明をできないのであれば、議員辞職もあってしかるべきだ」(上脇教授)。
 それとも、井上議員は、説明もせず議員にしがみつくことに汲々として、“こういうことを言う学者やメディアは干してしまえ”と言うのだろうか。

【山本 弘之】

 

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