2024年11月23日( 土 )

市民、女性、若者を覚醒させた採決強行!(1)

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法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏

 安倍政権は7月16日、高まる世論の批判を押しきり、「戦争法案」と言われる「安全保障関連法案」を衆議院通過させた。参議院の審議が始まる前日の26日には、市民2万5千人が国会を取り囲み、若者で溢れる東京・渋谷では、女性や学生が中心となり「戦争法案」反対のデモが続いた。この「戦争法案」反対の運動は29を超える全国都道府県に拡がり、同日には福岡や京都などのグループがそれぞれの地域の繁華街で声を上げた。
 立憲主義の破壊に反対する『国民安保法制懇』の設立メンバーで、法学館憲法研究所所長、弁護士(日弁連憲法問題対策本部副本部長)の伊藤真氏に聞いた。

 そもそも、今回の一連の動きは2013年に集団的自衛権の行使容認に積極的な専門家が中心となった安倍総理の“私的”諮問機関である『安保法制懇』の報告書に端を発している。しかし、奇妙なことに、そのメンバーには憲法学者は1名しか入ってなく、「法制懇」の名に相応しい議論が行われたとは到底思えなかった。そこで、急きょ、主権者である国民の立場に立ち、2014年5月28日に、日本を代表する憲法、国際法、安全保障などの専門家が集まり設立されたのが『国民安保法制懇』である。


国民の理解は日に日に、より深まっている

 ――今、全国で「安全保障関連法案」反対の動きが起こっており、その勢いは止まるところを知りません。先生は7月16日をどのように受け止めておられますか。

法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏<

法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏

 伊藤真氏(以下、伊藤) 内容の点においても憲法違反、審議の手続きにおいても、質、量ともに不十分のまま、採決強行が行われました。7月16日は議会制民主主義の観点からも、日本政治史の観点からも、極めて大きな問題を残した日になりました。

 安倍総理は採決強行後も、「国民の理解はまだ十分とは言えない」と認識されているようですが、私は逆に国民の理解は日に日に、より深まっていると感じています。その理解は、「この法案は憲法違反である」、「その実質は戦争法である」ということです。私は講演会などを通じてこのことを強く実感しています。27日からの参議院審議の中で、より一層、「安全保障関連法案」が「戦争法案」であることが明らかになってくると思います。私はこの法案が、国民の声によって、廃案となることを願っています。

いや、日本にはまだ民主主義が残っている

 ――「戦争法案」反対の運動やデモは、29を超える全国都道府県に拡がり、参議院の審議開始の前日の26日には、多くの市民が国会を取り囲み、東京・渋谷、福岡、京都などでデモが続きました。この点はどうご覧になっていますか。

 伊藤 今回安倍総理は憲法違反の法案を、しかも議会制民主主義の基本的な考え方を無視して採決強行しました。今回の安倍総理及び安倍政権の政治家の行動、発言は海外で「日本は立憲主義や議会制民主主義において極めて未成熟な国ではないのか」、「日本に民主主義は本当にあるのか」などという強い疑念を抱かせました。
 そんな中で、「戦争法案」反対に立ちあがった、市民、女性、若者の行動は「いや、日本にはまだ民主主義が残っている」、「立憲主義を理解している市民も大勢いる」という証しになっています。

 これまで政治に関係する運動は、日本の場合、どちらかと言えば労働組合など組織的な動員によっておこなわれることが多かったと思います。しかし、今回は、組織とか党派性などを完全に超越した市民、女性、若者が純粋、自発的に立ち上がりました。まさに、個人、個人が現在の状況を、自分たちの生活に引き寄せて考え、行動しているのです。私はこの観点から、これは日本における「民主主義」の萌芽ではないかとさえ感じています。

(つづく)
【金木 亮憲】


【注】国民安保法制懇:立憲主義の破壊に抗うべく、憲法、国際法、安全保障などの分野の専門家、実務家が結集して、2014年5月28日にできた組織。
愛敬浩二(名古屋大学教授・憲法)、青井未帆(学習院大学教授・憲法)、伊勢崎賢治(東京外国語大学教授・平和構築、紛争予防)、伊藤真(法学館憲法研究所所長、弁護士)大森政輔(元第58代内閣法制局長官)、小林節(慶応大学名誉教授・憲法)、長谷部恭男(早稲田大学教授・憲法)、樋口陽一(東大名誉教授・憲法)、孫崎享(元防衛大学校教授、元外務省情報局長)、最上敏樹(早稲田大学教授・国際法)、柳澤協二(元防衛省防衛研究所長、元内閣官房副長官補)の委員で構成されている。
2015年7月13日に「憲法違反の安保法案の廃案を求める」緊急記者会見を開いている。

<プロフィール>
itou_pr伊藤真氏(いとう・まこと)弁護士(日弁連憲法問題対策本部副本部長)
 1958年生まれ。1981年東京大学在学中に司法試験合格。1995年「伊藤真の司法試験塾」(現「伊藤塾」)を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。法学館憲法研究所所長。立憲主義の破壊に反対する『国民安保法制懇』の設立(2014年)メンバー。
著書として、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)、『けんぽうのえほん あなたこそたからもの』(大月書店)など多数。

 

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