市民、女性、若者を覚醒させた採決強行!(2)
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法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏
自分たちが声を上げないと大変なことになる
――先生は今回の一連の、市民、女性、若者の動きに、日本における「民主主義」の萌芽を感じると言われました。その点に関し、少しお話頂けますか。
伊藤 市民一般に共通して言えることですが、多くの女性や若者は、3.11そして福島原発以後は考え方がそれまでと大きく変わったと感じています。はっきり「国は信用できない」、「自分たちが声を上げないと大変なことになる」と気づいています。特にお母さんたちは、自分たちが声を上げないと「自分の子供の食の安全は守れない」、「自分の子供の命は守れない」と強く感じています。
福島原発事の問題でも、安倍総理は全世界に向けて「アンダーコントロール」を宣言しましたが、日本人であれば誰でもそれは嘘であることは分かっています。この「国に対する信頼の揺るぎ」は別に自民党政権に限ったことではありません。当時の民主党は「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の正確な数値をアメリカには報告しましたが、日本国民には隠しています。それでは、お母さんたちは自分の子供を守れないのです。
権力は信頼の対象でなく猜疑、監視の対象
――なるほど、今回の動きは「戦争法案」に限ったことではなく、3.11から綿々と続いてきたことの結果なのですね。
伊藤 そうです。ですから私は、日本における「民主主義」の萌芽を感じると申し上げたのです。日本ではこれまで「民主主義教育」というものを学校では全くやっていません。海外の先進国のどこの国でも行われている「民主主義とは何であるか」を教わることが全くないのです。せいぜい、「話し合いをして多数決で決めましょう」という程度のことを教わり、民主主義だと考えています。
時々、私が笑い話的に申し上げる中に、政治家が不祥事を起こした時の「国民の信頼を裏切ってしまい申し訳ありません」というコメントがあります。この政治家は全く「民主主義とは何であるか」が理解できていません。それは、民主主義の本質は「国家権力は信頼の対象ではなく、疑念や監視の対象」であるからです。もともと、政治家は信頼の対象ではありません。そして、このことは世界の常識です。
「信頼から独裁が生まれる」という名言がある
民主主義では、国民が自分たちの代表を選んで終わりではなく、選んだ政治家が「主権者の意思に従って行動するかどうか」、「憲法の命令に従って行動するかどうか」を主権者は疑い、監視し続けなければなりません。
政治家は権力を持つので、信頼の対象であってはならないのです。権力を信頼すれば独裁になってしまうからです。第3代アメリカ合衆国大統領で、独立宣言の起草者としても有名なトーマス・ジェファーソンは「信頼から専制が生まれる」という名言を残しています。これは世界の先進国に共通している「立憲民主主義国家」の基本的な発想なのです。
市民、女性、若者が肌感覚で捉え始めている
――現在の状況に照らしてみると、“腑に落ちる”というか、とてもよく理解できます。しかし、「政治家は信頼の対象ではない」というのは、目から鱗が落ちました。
伊藤 皆さんの多くが驚くのは当然のことだと思います。それは、日本においては、このような「民主主義」の根本を教えるような正しい教育を今までもやってきていませんし、現在でもやっていません。そのために、何となく「国は自分たちにいいことをしてくれる、政治家に任せておこう」という実体のないおぼろげな発想持っているのです。そして政治家が不祥事を起こした時にだけ、文句をいうことを繰り返してきました。これでは、全く発想が逆です。分かりやすく言えば「政治家が不祥事を起こすのは常識」なので、「政治家を日頃から疑い、監視していなければいけない」ということになります。
私が今すごくうれしく思っているのは、以上のようなことを、多くの市民、特に女性、若者が論理的と言うよりも、肌感覚で捉え始めていることです。このような問題意識は、常軌を逸したかなりショッキングなできごとでもないと、持てません。3.11はとても不幸な出来事ではありましたが、市民、女性、若者はそれをしっかりと受け止め、「汚染水のアンダーコントロールなどはデタラメである、実態はダダ漏れではないか」そして今回の「安全保障関連法案なんてデタラメで戦争法案じゃないか」と「どこまで政治家は国民を騙して嘘をつくのか」と感じているのです。
その延長線上に、今回の26日のデモがあります。今回デモの中心になっている女性、学生は、決して勢いでデモに参加しているわけではなく、3.11から考えてきた結果、「政府の言っていることはもう信頼できない」と意思表明しているのです。
自分たちが主体となって日本を作っていく
――なるほど、安倍総理が奇しくも、日本の「民主主義」の夜明けを演出した格好になっているのですね。
伊藤 そうです。安倍総理は、今回の市民、女性、若者の蜂起に驚き、話題を逸らして鎮静化させようと「新国立競技場」建設計画の再検討をこのタイミングで出してきました。しかし、国民には「目を逸らす意図が見え見えである」と見破られ、「何でもっと早くこの問題に対処できなかったのか」、「やっぱり信用できない」、「関係者が責任のなすりつけ合いをしているのが見苦しい」と逆に政府批判となり炎上しています。国民の目は節穴ではありません。あなどってもらっては困ります。
このことによって、「私たちは国の従属物ではない、支配の客体ではないのだ」、「自分たちが主体となって日本の社会を作っていくのだ」という意識がより高まっています。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
伊藤真氏(いとう・まこと)弁護士(日弁連憲法問題対策本部副本部長)
1958年生まれ。1981年東京大学在学中に司法試験合格。1995年「伊藤真の司法試験塾」(現「伊藤塾」)を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。法学館憲法研究所所長。立憲主義の破壊に反対する『国民安保法制懇』の設立(2014年)メンバー。
著書として、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)、『けんぽうのえほん あなたこそたからもの』(大月書店)など多数。関連キーワード
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