2024年12月02日( 月 )

西武ホールディングス、普通の会社に!堤家に続いて、サーベラスも全株を売却(前)

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 (株)西武ホールディングス(HD)は8月16日、米投資ファンドのサーベラスのグループが保有する西武HD株を10日付ですべて売却したと発表した。一時は経営方針をめぐり激しく対立したが、その関係にも終止符が打たれた。創業家である堤家との関係を解消したのに続き、サーベラスも撤退。
 大株主のくびきから脱して、西武HDは普通の会社になった。

サーベラスを西武HDの筆頭株主にしたマジック

 2005年3月、東京地検特捜部は西武グループの総帥、堤義明・前コクド会長を証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載とインサイダー取引)の容疑で逮捕、起訴。同年10月、一審の東京地裁で懲役2年6カ月、罰金500万円、執行猶予4年の判決が言い渡された。堤氏は控訴せず、判決通り有罪が確定した。

 すべてを1人で決定してきた絶対君主の堤義明氏が、経営の第一線から消えた。西武鉄道(株)の経営陣は総退陣。5月24日、メインバンクのメインバンク(株)みずほコーポレート銀行(後の(株)みずほ銀行)は副頭取の後藤高志氏を西武鉄道社長に送り込んだ。

 みずほは、堤義明氏が筆頭株主だった(株)コクドによるグループ支配が、不透明な企業体質を形成する元凶になったとして、堤義明氏の影響力を全面的に排除する方針を打ち出した。
 後藤氏は、銀行の方針を受け入れる姿勢を見せていたが、途中で持ち株会社方式による独自の再建案に転換した。いかにも金融のプロらしい株式交換・移転を駆使した手法だった。

 05年11月、コクドは新設した(株)NWコーポレーション(以下、NW社)と株式交換し、それまでのコクド株主(堤家)はNW社の株主になる。06年1月、コクドは1,600億円の第三者割当増資を実施。うち米投資ファンド、サーベラスが1,000億円を出資した。
 2月1日、コクドと(株)プリンスホテルが合併。翌2月2日、西武鉄道はプリンスホテルと株式交換を行い、西武鉄道はプリンスホテルの完全子会社となる。2月3日、持ち株会社西武HDを設立、社長に後藤高志氏が就いた。プリンスホテルが西武HDへ株式を移転。西武鉄道の親会社は、プリンスホテルから西武HDに交代した。

 この結果、西武HDの株式はサーベラスが30%、NW社は14.99%保有することになった。コクドに出資したサーベラスは、株式交換・移転という金融手法で、西武HDの筆頭株主に躍り出た。第三者には呆気にとられるマジックだった。

堤義明氏と後藤高志氏の“密約説”

 この持ち株会社方式のポイントは何か。みずほ主導の再建案は、堤義明氏を排除することになっていたが、後藤氏はその方針を180度転換した。堤義明氏が大株主であるNW社を西武HDの大株主に取り込んだのだ。

 サーベラスとNW社が西武HDの大株主になったこと。これが、西武グループの再建劇の最大のミステリーだった。刑事被告人になったとはいえ、コクドの株式を実質的に支配している堤義明氏の了解なしには、コクドの持ち株会社NW社の設立、さらにグループの持株会社西武HDの設立はあり得ない。

 以後、堤義明氏と後藤高志氏の“密約説”が語られるようになった。サーベラスは投資ファンドである。ファンドは投資して5年程度で保有株を売却する。堤義明氏が実権を掌握しているNW社がサーベラスから保有株を買い取り、堤義明氏が復権するという情報が流れたほどだ。

 西武HDの再上場によって高値で売り抜けたいサーベラスは、業績が低迷している西武HDの経営に不満を募らせた。13年にはサーベラスは西武HDにTOB(株式公開買い付け)を実施、保有比率を35.45%に高めた。サーベラスはプロ野球球団の売却やローカル線の廃止などを求めた。堤義明氏が経営陣の支持を表明して、サーベラスは目標の株数を集めることができなかった。
 その後、西武HDは、インバウンド(訪日観光客)需要の高まりでホテル事業の業績が急回復。再上場の環境が整った。

(つづく)

 
(後)

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