新たな福利厚生の仕組みを確立 「びずめし」で企業と地域経済の還流を促す（後）

Gigi（株）　代表取締役　今井 了介 氏

    ──なぜ創業の地に福岡を選ばれたのでしょうか。

　今井　私は生まれも育ちも東京ですが、フードテックと呼ばれるこの飲食領域を始めるにあたって、食べ物がおいしくてリーズナブルな福岡のまちが魅力的に映っていました。それだけでなく、人々の結びつきが強いというところも大きな決め手になりました。たとえば、東京というエリアを考えたとき、47都道府県から人々が集まっていて、幅広い人口分布をもっています。その一方で福岡には地元愛の強いエリアです。私たちのサービスは食事を誰かに贈ったり贈られたりと、人と人との結びつきに強く由来するシステムとなっており、システムとの親和性の高い県民性をもっていると考えました。

　そしてもう1つあるのが、新しいものを積極的に受け入れようとする風土です。福岡ではさまざまな企業が実証実験を行っています。スタートアップやベンチャーに対する支援・施策にも積極的で、テレビ局などのメディアを含め、東京ではスポットが当たりにくい小さな企業にも目を向けてくれると感じます。

    ──音楽家としてもさまざまなご活躍をされている今井代表ですが、これまでの経験から得た教訓はありますか。

　今井　私も音楽家としては駆け出しのころ、自分の音楽が認められませんでした。しかし、自分のスタイルを貫き通していくことで、自分の世界観や新たなマーケットを開拓しました。この経験から、物事を成就させるための3つのキーワードを見つけました。

　1つ目が圧倒的であること。起業家や表現者というのは「誰も追いつけないぐらい死ぬほど頑張っている」という人でなければいけません。自分が周囲の人を引っ張っていけるくらい頑張れない人には誰もついてきてくれません。それは社内外を問わず、です。

　2つ目は謙虚であること。自分が圧倒的だといって周りが見えなくなってしまうとたいていの場合、失敗します。そういった意味ではやはり人の声にも耳を傾けるべきです。たとえば私は音楽の作品をつくるときでも、主観と客観を2秒単位で切り替えるようにしています。制作した音楽を、まるで知らない誰かがつくったかのように聴いたり、表現したいことが本当にできているか、自分で見つめ直してみたりとさまざまなアプローチをもって音楽と向き合っています。謙虚、つまり周りの景色が見えていることが大事です。

　3つ目が寂しがらないこと。何か新しいことにチャレンジしようと思う時、仲間がいないことのほうが多いです。自分がすばらしいと思うからといって、すぐには仲間ができるわけではありません。そのために寂しがって、自分がやりたかったことを曲げてしまったり、ポリシーから外れた方へ切り替えてしまったりしてしまいがちです。もちろん、そのような柔軟性も事業を進めていくうえで大事だと思います。しかし、いわゆるライトパーソンといわれるような人やパートナーに出会えるまで自分を本当に我慢できるかというのも問われているのです。

　私がこの「ごちめし」というサービスを始めたのは「ありそうでなかった」サービスだったからです。その人がどのようなビジネスを行いたいかということによっても変化する部分だとは思いますが、私の場合、誰もやってないことだから圧倒的でいられ、熱を注ぎ込むことができています。誰かがすでに行っていることを2番手で追いかけるということになってしまうと私はモチベーションを失っていたと思います。

    伊藤園という会社は今でこそ大手となっていますが、ペットボトルや缶のお茶の製造を最初に企画したとき、かなりの論争があったそうです。「原価コンマ何円で飲めるようなものに100円とかの値段をつけて誰が買うんだ」という声があったなか、商品化にたどり着き、現在のヒット商品となったわけです。もちろん、その後は競合に晒されるわけですが、やはり、最初に成し遂げた人というのは本当にすごいと私はいつも思います。

　当社のサービスも「ありそうでなかった」というところで、世の中の価値観を変えるビジネスになると思っています。「人に利他の心を送り、それが可視化して循環する」という価値観は今後必ず訪れます。これがスタンダードになっていくとき、私たちが行ってきたものがその価値観を代表するサービスになると約束しますので、さまざまな企業の皆さまに注目していただきたいと思っております。

（了）

【杉町　彩紗】

＜COMPANY INFORMATION＞
代　表：今井　了介
所在地：福岡市中央区大名2-6-11
設　立：2018年9月
ＵＲＬ：https://www.gigi.tokyo/

＜プロフィール＞
今井　了介（いまい・りょうすけ）
1971年11月東京生まれ。作曲家・音楽プロデューサーとして、14組のアーティストが一堂に会し東京オリンピックに向けて歌われたコカ・コーラ社の公式ソング『Colorful』（2021年7月リリース）の総合プロデュースを務めた。安室奈美恵『Hero』や、TEE/シェネル『ベイビー・アイラブユー』なども手がけ、作家・プロデューサーのエージェンシー（有）タイニーボイスプロダクションを創業・主宰。東京・LA・シンガポールに拠点を構え、ワールドワイドに活躍中。