2024年12月22日( 日 )

後継者育成が喫緊の課題 専門技能を次世代へつなぐ(後)

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(一社)福岡県技能士会連合会
代表理事・会長 黒木 一夫 氏

 ひとくちに「技能士」といえど、とび・土工、鉄筋、左官などといった建設業におけるもの以外にも、和裁、フラワー装飾など、各業界で脈々と受け継がれてきた卓越した技能の数々は誇るべきものだ。しかし、建設業を含めそのほとんどが現在、後継者の減少に悩まされている。この技能士の文化と技術を継承するために設立されたのが(一社)福岡県技能士会連合会だ。業界に立ちはだかる課題や活動内容について、代表理事・会長の黒木一夫氏に話をうかがった。

資格取得者がより恵まれる環境を

(一社)福岡県技能士会連合会 代表理事・会長 黒木 一夫 氏
(一社)福岡県技能士会連合会
代表理事・会長 黒木 一夫 氏

    ──業界の課題などお聞かせください。

 黒木 やはりどの職種も職人・後継者不足が大きな問題となっています。そのためにも、後継者育成として先述のような技能士五輪や匠の技フェアにも積極的に取り組んでいるところです。次世代に技能を引き継いでいくことが最重要課題となっています。

 さらに、地位向上も各業界の技能士が直面する課題です。労務単価が上がらず、技能士という国家資格を有していながら収入になかなか反映されていないのが現状です。技能士になることでの優位性をもたせるため、福岡県に一級技能士現場常駐制度の導入を働きかけました。この制度は、官公庁営繕工事において、延べ面積3,000m2以上、または一定数以上の建物建設に使用する「建設工事共通仕様書」で特記仕様書で指定する工事作業については、一級技能士を1名以上常駐させなければならないというものです。

 1981年度から当時建設省所管で実施されることになり、福岡県にも同制度を導入すれば、技能士志望の職人の増加や技能のレベルアップにつながると考え、福技連が主体となって、全国建設業協会ほか各種団体に協力をいただき福岡県に要望を出していきました。そうして、86年9月1日より7業種で実施され、以降、順次業種が増加。現在は11職種にまで適用されるようになりました。この制度導入は県ごとに行っており、まだ導入していない県もあると聞いています。

 また、官公庁の工事のみにとどまっています。民間工事への制度導入についても調整を試みましたが、なかなか難しく従来の状態が続いています。ほかには、一級技能士の資格者が在籍していれば、経営事項審査の評点に加算されるなどの働きかけも行い、技能士の地位向上につながっています。

 技能士を増やし、そして育てていく。そのためにも、技能士資格取得者が経済的にも恵まれる存在にならなくてはなりません。福技連では、技能士の社会的地位向上により労務単価を少しでも上げていくこと、技能尊重機運の醸成、次世代への技能継承を図るためさまざまな事業に取り組んでいます。「ものづくり」に対して社会的に正しい評価がなされ、技術立国として再び繁栄が享受できる社会づくりに貢献してまいります。

(了)

【内山 義之】


<INFORMATION>
(一社)福岡県技能士会連合会

代 表:黒木一夫
所在地:福岡市東区千早5-3-1
    (福岡人材開発センター内)
TEL:092-661-0714
URL:https://sites.google.com/view/fukugiren/


<プロフィール>
黒木 一夫
(くろき・かずお)
1925年11月、宮崎県出身。42年12月に宮崎県立宮崎工業高校建築家卒業後、43年1月に(株)大林組に入社。入隊・除隊を経て、45年8月に大林組に復職。51年8月に(株)寿工務店を設立。同社代表取締役に就任した。75年4月から83年4月まで福岡県議会議員、82年6月から94年5月まで福岡建設業協会会長などの役職を歴任。その間、82年8月に前身となる福岡県技能士会連合会会長、法人化を経て2012年4月に(一社)移行にともない(一社)福岡県技能士会連合会・代表理事兼会長に就任し現在に至る。ほか福岡県職業能力開発協会理事などの要職も務める。

左から杉山秀彦氏、手島明彦氏、黒木一夫氏
左から杉山秀彦氏、手島明彦氏、黒木一夫氏

福技連マイスター会
会長、福技連副会長 手島 明彦 氏

福岡県職業能力開発協会
副会長(会長代行) 杉山 秀彦 氏

 手島明彦氏 昨年まで(一社)日本和裁士会の会長務めておりました。やはり後継者不足の進行を肌で感じています。その一因に労務単価が上がっていないこと挙げられます。長い時には16年間加工料が上がらず、着物市場は1980年代の約1.8兆円から約6分の1の2,700億円にまで縮小しています。需要の後退に、レンタル品の普及や結婚式の簡素化により仲人という慣習の消失などのほか、中国やベトナムなど、賃金が安い海外縫製の流入が挙げられ和裁の国内シェアが年々減っています。

 また、手縫いどころかミシン縫製をしたことがないという人も多いでしょう。何でも買えるようになり、文化が衰退してしまっています。ピーク時には日本和裁士会の会員数も4,000人程いたのですが、現在は1,000人を切る状況です。それでも、20歳前後の若い職人が和裁技能の日本一を決める技能五輪に出て頑張っています。嬉しい限りです。

 「和装(きもの文化)」のユネスコ無形文化遺産登録も目指しており、多くの団体より賛同を得て、文化庁に働きかけていることころです。文化の再興とともに、技能士の増加を目指します。

 杉山秀彦氏 私は、黒木会長から福岡県職業能力開発協会の副会長を引き継ぎました。当協会の会長は倉富純男氏(西日本鉄道(株)代表取締役会長)。代々、西日本鉄道のトップが務められています。当協会は、人材育成に取り組む企業や自らの職業能力の研鑽に励む方たちのため、各種資格試験の実施など、さまざまなお手伝いをしています。

 技能検定のメリットは合格した等級に応じた特典です。たとえば、技能士を名乗ることができ、建設業法の専任の者、主任技術者の資格やほかの資格試験の受験資格や一部試験免除などがあります。また、企業として従業員に受検させると、若い技能者の習熟度の確認ができるほか検定で認められた技能士が在籍することが、その企業が高い技術力をもつ証明となり、顧客からの信用が高まります。このほかにも多くの特典を受けることができます。

 私はほかにも、建設産業専門団体九州地区連合会や(一社)福岡県建設専門工事業団体連合会の会長も務めています。職人不足の問題には非常に危機感をもっており、行政と協力して職人の地位向上や労務単価アップに取り組んでいるところです。技能士資格を取得することで、職人の自信につながり仕事に誇りがもてるようになれるよう、これからもお手伝いをしてまいります。

【内山 義之】

(前)

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