2030年までに世界で最も自由な国を目指すウクライナ
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、12月16日付の記事を紹介する。ウクライナの未来はどうなるのでしょうか?ロシアとの戦争は終わりが見えません。ウクライナには日本も中国もさまざまなかたちで協力関係を構築してきたものです。首都キーウには中国からの留学生やIT関連の技術者も数多く滞在し、いたるところから中国語が聞こえていましたが、今は昔の話。
強気のゼレンスキー大統領は国際社会に向けて、プーチン大統領の非道さを訴えつつ、武器や資金の提供を求め続けています。そうした要望に応え、バイデン大統領はアメリカ議会に対して377億ドルの追加支援の要請を行いました。去る11月15日のことです。これまでアメリカやEU諸国は累計1,260億ドルの資金援助を行っており、この額はウクライナのGDPに匹敵します。
今回の追加支援の発表はトランプ前大統領が2024年の次期大統領選挙に再出馬を表明した、その時でした。先の中間選挙で下院の多数派を獲得した共和党はウクライナへの資金援助は削減し、アメリカ国内のインフラ整備を優先すべきと主張しています。
とくにトランプ氏は「ウクライナのことはウクライナに任せるべき」との立場で、「アフガニスタンの二の舞は避けねばならない」と、「アメリカ・ファースト」路線への回帰を訴えました。
上院での過半数の議席は維持したものの、バイデン大統領の残り任期の2年は下院の共和党が過半数を取り、波乱含みです。何しろ、今年中にアメリカ政府はウクライナへ1,000億ドルの財政支援を行うことを予定しています。共和党がホワイトハウスを奪還する前に、ウクライナへの肩入れを強化しておこうというわけです。
当面の脅威であるロシアを崩壊に導くために、ウクライナ戦争を全面的に支援する戦略に他なりません。当初は短期間でウクライナに圧勝できると高を括っていたプーチン大統領は国際社会からも国内からも厳しい批判と糾弾を受けています。
アメリカからすれば、もうあと一押しすれば、ロシアは国内の反対勢力が台頭し、プーチン政権を崩壊に追い込むと踏んでいるようです。そうした欧米からの支援を受け、ゼレンスキー大統領は「2030年ウクライナ再生計画」を発表しました。
極めて野心的な未来ビジョンです。その実現のためには、日本の政府や民間企業からの協力や投資が欠かせないとし、駐日ウクライナ大使は各方面に熱心に働きかけを進めています。ウクライナの駐日大使曰く「ウクライナの戦後復興には東日本大震災における日本の経験とノウハウを提供してほしい」。
では、どのような未来のウクライナを目指しているのでしょうか?一言でいえば、「世界で最も自由でデジタル化された国」です。
その中心となる構想はキャッシュレス・ペーパーレス社会と人工知能(AI)を活用した政治、裁判、医療制度の実現に集約されています。いわゆる「官僚組織」や「軍隊」はすべて解体し、世界で最も進んだ「AI政府」と「サイバー軍」を創設するというのです。ウクライナという国全体を「無敵のアイアンドーム」で覆うとまで主張しています。
また、政府の決定はすべてAIに委ね、政治家や役人の汚職や利権を一切介入させないとまで踏み込んでおり、驚かされるばかりです。ゼレンスキー大統領もフェドロフ副大統領も従来の価値観から脱皮し、世界で最も効率的な国家運営を実現したいと内外にアピールしています。
すでにウクライナではAIシステムの構築が進められており、国民への行政サービス、たとえばパスポートの申請や発行も面倒な手続きを経ないでネット経由で行われるようになっているとのこと。
ゼレンスキー大統領曰く「デジタル情報をクラウドで管理すれば、ミサイル攻撃を受けても影響はなくなる。国民の個人データはすべてアマゾンかマイクロソフトのクラウドサービス上に保管すればよい」。
こうした未来ビジョンを実現するためのインフラ整備を日本の支援と協力で進めたいというわけです。
そのための資金はウクライナ東部地域に未開発のまま眠っているレアメタル資源から生み出したいと考えており、日本の総合商社も動き始めています。実は、こうした構想が生まれてきた背景には、早ければ年明け、遅くとも2023年の夏までには「ロシアとの停戦」が成立するとの見通しがあるようです。
言い換えれば、アメリカの天井知らずの資金と武器の援助によって、プーチン政権は崩壊するという大前提に立っていると言っても過言ではありません。そのため、アメリカを始め日本の企業も「ポスト・ウクライナ戦争」に向けて下交渉に余念がないわけです。
はたして、目論見通り行くのかどうか、大いに注目すべきと思います。ウクライナのゼレンスキー政権はアメリカからの軍事や経済支援を横流しし、私腹を肥やしているとの批判も聞かれるからです。そうした疑問や不信を払しょくしなければ、「2030年再生計画」も絵に描いた餅に終わってしまいかねません。
次号「第323回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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