2024年11月16日( 土 )

【2022年流通・小売業界回顧(2)】業態開発からみえる未来のカタチ(中)

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 コロナの感染が収まらなかった2022年。それでも社会・経済活動の正常化が進むなかで、小売業は生活者の意識や行動の変容に対応しつつ、コロナ後の持続的な成長を目指して、業態開発やDX(デジタルトランスフォーメーション)活用、M&Aなどといった取り組みを活発化させた。この1年の動きを振り返りながら今後を展望する。

スーパーは次世代に向けニューフォーマット

 冷凍食品はコロナ禍での巣ごもり消費に後押しされ売上が伸びたが、家庭の食卓が改めて注目されるなかで、スーパーも消費者のニーズの変化に対して次世代のフォーマットづくりにチャレンジしている。

 スーパーセンターを136店舗展開するベイシア(群馬県前橋市)。顧客は「新鮮さ」を求めているとして生鮮食品の仕入れ方法を見直し、最新テクノロジーを駆使した配送を行う新たな店舗「Foods Park」を11月、栃木県大田原市にオープンした。「採れたて」「切りたて」「できたて」「つきたて」「揚げたて」の鮮度にこだわり、青果売り場では、壁面すべてを使って栃木県下野市のご当地野菜を展開するという思い切った取り組みを実現させた。

 鮮魚では豊洲など全国の市場から直送で丸魚を仕入れ、朝仕入れた丸魚は時間の経過によって適宜調理することでかたちを変えておいしさを維持、フードロス対策にもつなげている。鮮肉では自社ブランド牛「とろ牛」を導入、4等級の牛を一頭買いすることで、赤身から霜降り肉まで、高品質で鮮度の高いさまざまな部位をそろえ、店内加工で提供する。

 できたてを提供するために店内加工・調理を充実させた惣菜では、同社最大規模の幅約7m×2段のフライコーナーに30種類の商品をそろえた。弁当のご飯には、山形県の銘柄米「はえぬき」を用意、店内で炊飯直前に精米しふっくらとみずみずしく炊き上げる。インストアベーカリーではバリエーション豊富な焼きたてクロワッサン、フルーツコーナーでは、店内で加工した鮮度感あふれるカットパイン、旬のフルーツを使用したフルーツパフェを新たに投入した。

トライアル
トライアル

    「Foods Park」が鮮度強化で家庭内調理に対応するのに対し、スーパーセンターを271店擁するトライアルカンパニー(福岡市)は、食べて帰るグローサラントという正反対の路線にチャレンジしている。福岡県宮若市との官民連携協定による共同事業として、スーパーとレストランを融合させた農園レストラン「グロッサリア」を4月にオープンした。有名シェフが監修するレストランやカフェ、自然派ベーカリーから構成され、こだわりを全面的に打ち出している。AIカメラを活用する次世代型スマートストア「トライアルGO脇田店」も同時にオープン、複合業態として展開している。

 グローサラントは新たな需要を取り込む取り組みであり、イオンも売り場の食材を使用したメニューを提供している。手がける企業は増えるだろう。

農園レストラン foods park
スーパーとレストランを融合させた
農園レストラン「グロッサリア」

フード&ドラッグで競争力を高める

 機能だけではなく業態も組み合わせて利便性を向上させ、集客力を高める新たな取り組みも登場した。

 「ウエルシアブランデ」は、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都千代田区、以下、U.S.M.H)傘下のカスミ(茨城県つくば市)が、現在のライフスタイルに即した新しい店づくりによって、全社を活性化させる“起爆剤”とするため開発した新業態。

 1月に出店した1号店の「つくば並木店」は、ドラッグストア大手ウエルシア薬局と売り場、レジを一体化し、「フード、ヘルス、ビューティー&ウエルネス」をコンセプトに、より利便性の高い新しいスーパーのかたちを目指す。売り場面積2,353m2で年商目標は16億円。食品は地元の野菜や精肉、農産加工品などを充実、上質なこだわり商品の品ぞろえも強化し、カフェスペース「Cafe&Dine」では、食事メニューのほか、地元レストランなどの協力を得てスイーツも提供する。

 U.S.M.Hは20~22年の中期経営計画において、「突き抜ける鮮度」「商品との出会い」「エンリッチ」「繋がり創出」の4つの価値を提供することで、生活者に愛着をもってもらえるフォーマットの創出を目指すとしており、ブランデの取り組みはその一環だ。

 ウエルシア薬局を抱えるウエルシアホールディングスは、イオン九州と共同出資で9月、イオンウエルシア九州を設立した。「このままではスーパーとドラッグストアはともに生きていけない、変わらなければならない」という危機感を共有、フード&ドラッグの展開に活路を見出そうとしている。

 1号店の出店時期は未定だが、福岡エリアで店舗網を構築し、その後九州全域に広げ、30年までに、200店舗・売上高1,800億円を目指すとしている。基本の店舗フォーマットは1,487m2、600~700mの小商圏で、1カ所・短時間で生活必需品がそろうワンストップショッピングを提供するというもの。ウエルシアの調剤とカウンセリング、介護およびイオン九州のできたて総菜、生鮮食品といった強みを掛け合わせ、前者の約1万5,000SKU、後者の1万2,000SKUで計約2万7,000SKUを展開する。666m2、999m2といった店舗も想定し、イオン九州の既存店からの業態転換も視野に入れ、出店を加速させる予定だ。

(つづく)

【西川 立一】

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