「はかた号」の現状と展望(前)
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運輸評論家 堀内 重人 氏
「はかた号」は、バスタ新宿~小倉駅バスセンター(小倉駅前)と西鉄天神高速バスターミナルを経由して博多バスターミナルを結ぶ、西鉄バスが運行する長距離の夜行高速バスである。運行開始は、1990年10月12日からであり、開業当初は京王帝都電鉄(現・京王電鉄バス)との共同運行というかたちで始まった。
運転開始時は、現在の「ビジネスシート」に相当する座席だけのモノクラスで始まったが、その後はダブルデッカー車が導入され、より上級席である「プレミアムシート」と、値ごろ感を追求した「エコノミーシート」が導入され、より柔軟なクラス設定により、多種多様なニーズへの対応をしていた。現在の車両は、スーパーハイデッカー車が使用され(写真1)、「プレミアムシート」と「ビジネスシート」の2クラス制である。
「はかた号」が運行開始されるまでに考慮されたこと
東京~博多・天神までは、運行距離が1,000kmを超えていることから、国土交通省(当時は運輸省)は、運転手2名の乗務で安全性が担保できるか否かを、最も重視した。当時は、東京~九州間に寝台特急が運転されていたが、こちらは2時間ごとに運転士が交代していたため、運転士の疲労による事故は問題になっていなかった。また鉄道には、各種保安システムが装備されているため、運転士が意識を失ったとしても、ブレーキがかかるようになっている。
当時の運輸省としては、2名の運転手が2時間ごとに交代で運転したとしても、車両の床下に備わる仮眠室などの休息だけで、疲労することなく、バスを安全に運行できるか否かの判断が、難しかった。また当時、1,000kmを超えて運行する高速バス路線が無かったこともあり、乗客の疲労も問題視していた。
お役所は、前例のない事例に対しては、消極的になる傾向が強い。そこで西鉄は、臨床医学士に医学的データを示させて、当時の運輸省を説得した。その結果、2名が交代で乗務するかたちで、東京~博多間の長距離高速バスの運行に対し、免許を出した。1990年当時は、路線の申請に対して、より規制が厳しい免許制であった。
一方、1,000kmを超える長距離路線であることから、乗客の居住性にも配慮する必要があり、より防音性と眺望に優れたスーパーハイデッカー車を使用することを条件として、90年6月に、西鉄に対して免許を交付した。
「はかた号」の概要
バスタ新宿~博多バスターミナル間は、1,097km離れており、運行を開始した当初は、日本一走行距離が長い高速バス路線であった。当初は中央道を経由していたが、現在は新東名や新名神が開通したこともあり、そちらを経由するようになって距離が短くなったことから、ツアーバス上がりの「オリオンバス」に首位の座を明け渡している。
バスタ新宿から博多バスターミナルまでの所要時間は、14時間17分であり、上りの博多バスターミナルからバスタ新宿までは14時間39分である。運行を開始した当初は、15時間15分を要していたことから、現在では1時間程度早くなっている。
現在の車両は、スーパーハイデッカー車であり、2020年7月から使用されている。2020年は、「はかた号」が運行を開始してから30周年を記念する年であるため、それを契機に新型車両に置き換えた。車種は、三菱ふそうのエアロクィーンであり、座席配置も先代車と同様に、「プレミアムシート」・「ビジネスシート」の2クラス制である。
「はかた号」は、1,000km以上の長距離を走行するため、ゆったりとした座席に対するニーズが高くなるが、そのような座席を多くすると、定員が少なくなるから、利益率が悪くなってしまう。そこで「プレミアムシート」が4席、「ビジネスシート」が18席と、先代の車両の座席配置が踏襲された。
「プレミアムシート」は、先代同様のパーティションで区切られた個室風な感じであるが、通路との間は、カーテン1枚で仕切るタイプである(写真2)。本革張りの電動式のリクライニングシートが配置され、座席には電動式のレッグレスト以外に、マッサージ機能や背面ヒーターを備えている。そしてコロナ禍でもあることから、専用の空気清浄機も設置されている。先代の車両では、各座席にiPadが備わっていたが、新型車からはiPadは廃止され、充電用のUSBポートのみ備わる。そして巻取り式のカーテンとワイヤレスの携帯電話への充電器が設置された。
「ビジネスシート」は、先代の車両と同様に本革張りで、1-1-1の独立横3列シートである(写真3)。プレミアムシートのように、電動でリクライニングしないが、レッグレストを備える以外に、新たにダブルクッションを採用したシートであるから、座り心地が向上している。また通路にカーテンが備わっており、「プレミアムシート」ほどではないが、プライバシーにも配慮されている。「プレミアムシート」と同様に、座席にコンセントは備わらないが、充電用のUSBポートが備わり、毛布の提供がある。また先代の車両では、「プレミアムシート」のみで提供されていたWiFiサービスが、今回の車両からは、全座席で提供されるようになった。
また他社では、高価なスーパーハイデッカー車を導入せず、ハイデッカー車を導入している事業者が多いなか、西鉄バスは「はかた号」にスーパーハイデッカー車を導入しているため、眺望が優れている。そして安全面に関しては、追突軽減ブレーキ、車線逸脱警報、車間距離警報、左側方の監視システムなどが導入され、より安全対策が向上している。
(つづく)
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