2024年12月22日( 日 )

【企業研究】没落する九州の王~九州電力

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 九州電力(株)は今期上半期決算(2022/4~22/9)で778億円の経常赤字に転落した。売上高が増えた一方で燃料費などコストが嵩んだ。中間配当も無配。電力インフラを握り、かつては九州経済界のトップに君臨した同社だが、カルテル疑惑も噴き出すなど、その威光も失われつつあるようだ。

大震災で暗転

 公正取引委員会は、九電や中国電力、中部電力がそれぞれ関西電力とカルテルを結んでいたとして、独占禁止法違反で課徴金案を通知した。企業向けの電力供給で、互いに相手のエリアでの営業活動を制限していたとされる。カルテルの中心は関西電力だと思われるが、同社は最初に公取委に違反を自主申告したことで、独禁法の課徴金減免(リーニエンシー)により行政処分を免れた。課徴金は3社で約1,000億円。うち九電は27億円と最も少ない額だが、株主代表訴訟などのリスクを抱えた。なぜ九州を代表する企業が、この危うい橋を渡る必要があるのか。背景には、経営的に次第に追い詰められてきた同社の姿がある。

 凋落の始まりは東日本大震災だ。2011年3月の震災による福島第一原発事故を受け、原発政策見直しの世論が高まった。世論を変えたい九電は原発再稼働の説明番組で「やらせメール」を行ったことが発覚。11年末には九州の原発6基が停止、翌12年には松尾新吾会長、真部利応社長が「やらせメール」問題で退任した。原発が収益の柱である同社は13年3月期決算で、過去最大の3,324億円の最終赤字を計上した。

 その後はほかの電力会社に先んじて原発再稼働を達成してきたが、16年には電力小売自由化により競争環境が激化。21年からのLNG(液化天然ガス)不足に、ロシアによるウクライナ侵攻、加速度的な円安が拍車をかけ、急激なコスト上昇に見舞われた。震災以降、同社にとっては逆風が続いている状況であり、それが禁じ手のカルテルにつながっていったのだろうか。

膨張する借入金

九州電力  既往の業績

 業績の推移を見ると、売上高は上伸基調にあり相応の利益を確保しているように見える。一方で貸借対照表とキャッシュフロー(CF)表を見ると印象が変わる。

 まず目につくのは膨張する有利子負債(社債、コマーシャルペーパー含む)だ。23年3月期中間では4兆円を超えた。借入金が増える構図はCF表を見れば明らかだ。事業で生み出す営業CFで必要な投資CFを賄えないためフリーCFがマイナスになる。これを借入金で補うため財務CFはプラスになる。別表は直近5期のものだが、直近10期でもフリーCFがプラスになったのは16年、18年期の2期のみだ。慢性的なキャッシュ不足の状態である。

 もともと電力会社のなかでも原発依存が高いが、その優位性を失うと途端に脆さが露呈する。さまざまな新規事業も鳴かず飛ばずで、結局は原発頼りの経営でしかなかったということだろう。

九州電力 貸借対照表

九州電力 キャッシュフロー

企業価値も凋落一途

 業績不振から株価も低迷が続いている。リーマン・ショック前の07年には3,000円台半ばの水準だったが、その後低下傾向となり、震災を契機に急落する。原発の稼働停止に追い込まれたことで、一時的に500円を割り込むところまで落ちた。15年には1,700円台にまで回復したが、再び下落基調となり現在では700円前後を彷徨っている。

株式時価総額

    株価の低迷から企業価値である株式時価総額も縮小した。09年に1兆円超の時価総額で九州トップだったが、震災後の急落でその座を久光製薬(株)(佐賀県)に明け渡した。現在では3,400億円台にまで縮小し、17年に九電以来、九州勢で初の1兆円企業となった(株)安川電機に大きく水を開けられている。福証上場企業で福岡県に本社を置く企業に限っても、別表のように6番手に甘んじている状況だ。原発が再稼働しても、その他のマイナス要因が大きく、株価は低空飛行だ。以前とは異なり市場の目も厳しさが増している。

 12月21日、同社は不動産運用に進出することを発表した。私募REITへの参入を目指すというが、それも付け焼刃の苦肉の策にしか見えない。

● ● ●

 1961年に発足した九州経済連合会の会長は、設立以来、九州電力の会長経験者が務めるのが慣例だった。それが九州経済界のトップに君臨する証でもあった。だがそれも13年の松尾氏の退任で途切れた。

 没落する日本経済のなかで、さまざまな既得権を背景にした権力構造が壊れ始めている。同社の姿はその象徴にも見える。同社が失った玉座を取り戻すことは、もうないのだろう。

【緒方 克美】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:池辺 和弘
所在地:福岡市中央区渡辺通2-1-82
設 立:1951年5月
資本金:2,373億円
業 種:発電所ほか
売上高:(22/3連結)1兆7,433億1,000万円
仕入先:ENEOS、丸紅、三菱商事、
    電源開発ほか
販売先:一般個人・法人
取引行:みずほ(福岡)、福岡(本店営業部)、
    日本政策投資銀行、
    西日本シティ(福岡)ほか

関連記事