台湾有事が日本の離島有事に飛び火する可能性をどう防ぐか?
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、1月13日付の記事を紹介する。このところ台湾海峡をめぐる緊張が激化する一方です。中国による台湾への軍事的威嚇も強まっています。そのため、ウクライナ戦争が台湾有事に発展するのではないかとの危惧も高まってきました。
そうした背景もあり、台湾有事を想定したシミュレーションが日本でもアメリカでも頻繁に実施されています。たとえば、昨年8月、「日本戦略研究フォーラム」(屋山太郎会長、故安倍晋三最高顧問)の主催で、「第2回台湾政策シミュレーション」が開催されました。台湾海峡の平和が損なわれる事態が発生した場合に、日本の死活的な国益や国内外の邦人の生命をいかに守るか、が主に議論の対象になったものです。
また、アメリカの有力シンクタンク「CSIS」では連続して、「台湾をめぐり米中が戦えば」といった図上演習を行っています。政府関係者や軍人が参加し、さまざまな状況を想定したシミュレーションが繰り返えされているわけです。
こうしたアメリカにおけるコンピューター上のシミュレーションには人工知能(AI)による分析データも活用されているとのこと。とはいえ、何回やっても、アメリカ軍は中国軍を追い返すことができないとの結論が出ています。
これではアメリカも台湾当局も真っ青でしょう。日本としても、何とか「中国の脅威」を未然に防ぐための抑止力をアメリカ、台湾などと協力して構築しようと知恵を絞っています。実は、中国による情報戦は日米を圧倒しているため、AIの分析では、どうしても中国に軍配が上がってしまうようなのです。
たとえば、中国は台湾有事と同時に、尖閣諸島にも武装漁民を上陸させ、実効支配を達成する可能性が高いのです。中国国内では「日本の海保によって中国人漁民が死亡」とのフェイクニュースも拡散し、反日世論が広がります。それを追い風に、中国は「無人機が台湾軍に撃墜された」と主張し、台湾侵攻にも踏み切るとの設定も現実味を帯びているのです。
2027年、中国の世論工作によって台湾内で独立派と統一派が衝突し、台湾総統が襲撃されるとの可能性も示唆され、これはあり得る話。それを受け、尖閣諸島に中国の漁民が200隻の漁船に乗り上陸しますが、そのなかには中国軍の特殊部隊が含まれているわけです。
日本政府は邦人に中国や台湾からの自主的な退避を呼びかけますが、情勢の悪化で民間の船舶や航空機は使えません。中国には11万人、台湾には1,500人の日本人がいるのですが、どのように避難させるのか、有効な手立ては確立されていないのが現実です。また、尖閣の状況を日本が攻撃を受けた武力攻撃事態と認定すれば、日本と中国の対立関係は決定的となります。
中国が統一を目指す台湾から自衛隊機で法人を退避させようとすれば、中国から攻撃されるリスクも増すはずです。早い段階での邦人退避の仕組みづくりが欠かせませんが、現実は手付かず状態と言っても過言ではありません。今後、日米台3者の合同訓練を含む連携強化が必要になるでしょう。
2022年11月17日、自衛隊と米軍による共同統合演習「キーン・ソード23」が実施され、与那国島の公道を陸自の16式機動戦闘車(MCV)が初めて走行。駐屯地内の訓練には米軍が初めて参加しました。南西諸島がアメリカによる中国封じ込め作戦の舞台になることを想定したものです。
さらに、2022年12月、防衛省は陸自の与那国駐屯地に地対空誘導弾(ミサイル)部隊を配備する方針を公表。その施設拡張のために駐屯地東側の土地18万m2を取得するとのこと。新たな電子戦部隊を編成するため、長崎県と熊本県の駐屯地から約50人が増員されるため、与那国島の自衛隊員数は210人に増えることになります。
これらはすべて中国の動きを念頭に置いた対応です。台湾有事で米中が本格的な通常戦争に入った場合、現状ではアメリカ軍が勝てないとのシミュレーションがあるため、アメリカ政府は日本の関与を一段と強く要請し始めました。自衛隊は中国側の「第一防衛線」である九州西部・奄美・琉球諸島のラインで中国艦隊・航空部隊の太平洋進出を食い止めると同時に、東シナ海を通過する中国の海上輸送路を遮断する任務を果たさねばなりません。
こうした状況を踏まえ、2023年1月11日、ワシントンで開催された「日米安全保障協議委員会」で、アメリカ側は日本の新たな国家安全保障戦略を歓迎したうえで、沖縄県駐留の海兵隊を2025年までに「海兵沿岸連隊」に改編することを表明。台湾有事が現実化し、離島有事に飛び火することを想定したもの。何やらきな臭い限りです。
「火のない所に煙は立たぬ」と言いますが、煙をまき散らすことで火が付くことの可能性も否定できません。それでなくとも、中国は日本へのビザ発給の停止措置を一方的に通知するなど、日本への敵対的な政策を展開しています。相手を恐れ、敵視するだけでは軍需産業は潤うでしょうが、国民生活は犠牲を強いられるだけです。官民挙げて、平和的共存共栄の道への模索に知恵を絞る時ではないでしょうか。
次号「第326回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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