汚職の次は談合、電通の「闇」は底なし(前)
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東京五輪・パラリンピックのテスト大会計画立案業務をめぐる入札談合事件で、東京地検特捜部は2月8日、広告最大手「電通」幹部らとともに競技会場ごとに落札予定企業を決定し受注調整を主導したとして、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で、大会組織委員会大会運営局の元次長、森泰夫容疑者(55)を逮捕した。東京大会は昨年の汚職事件に続き、談合事件でも逮捕者が出る事態になった。
汚職事件、談合事件とも仕切ったのは電通だった。
随意契約の総額は約400億円
逮捕されたのは、広告最大手電通のスポーツ局長補だった逸見晃治容疑者、イベント制作会社セレスポの専務・鎌田義次容疑者、番組制作会社フジクリエイティブコーポレーション(FCC)の専務・藤野昌彦容疑者。
新聞各社の報道によると、以下のような経緯となる。
組織委は2018年、各競技のテスト大会の計画を立案する業務について、会場ごとに26件の競争入札を実施。9社と1共同企業体が落札した。契約金は計約5億4,000万円だった。
すべての落札企業は、その後のテスト大会の実施運営や本大会の運営の業務にも、入札のない随意契約でそのまま受注した。随意契約の総額は約400億円だった。
森元次長ら4人は18年2~7月、テスト大会から本大会に至る業務を対象に、面接やメールを通じて7社で受注を調整。各社の希望を踏まえて受注予定業者を決め、その業者だけが入札することなどで合意して競争を阻害した疑いだ。
競技会場の運営を担う森元次長の焦り
森元次長は、横浜国立大を卒業後、1991年に東急電鉄に入社。都市開発に携わっていたが、大学まで陸上の中距離の選手だったことから、2004年に日本陸上競技連盟に転職した。営業マンとして頭角を現し、事務局次長に昇進。陸連は競技団体の中核組織ということもあり、日本オリンピック委員会(JOC)や東京マラソン財団理事を務めた。
東京五輪パラの組織委になったのは14年で、競技会場の運営を担う大会運営局を指揮した。五輪組織委運営局といえば、大会成功のカギを握る要職。そのなかでも、森元次長は開閉会式会場である国立競技場の責任者を務めるキーパーソンだった。
会長職を途中辞任した森喜朗元首相と同姓ということもあり、「ミニ森」として存在感を示し、権勢をふるっていたという。
朝日新聞(2月9日付朝刊)は、
〈準備期間が限られ、慌てた森元次長は、マイナー競技の会場について、自ら業者側に出向いて入札の参加を依頼した。入札の時期が近づくと、「ちゃんと出てくれますよね」と意向を再確認〉
する姿を報じた。
電通が談合を仕切った
森元次長が頼ったのは電通だ。一緒に逮捕された電通の元スポーツ局長補・逸見晃治容疑者は、電通で長年スポーツイベントに携わり、16年から東京大会を担当した。ポイントはこのくだりだ。
〈電通本体の窓口として、他社の受注意向を聞き取り組織委に出向していた電通社員とも連絡を取り合う役割だったという〉(前出朝日新聞)
電通が談合を仕切ったということだ。
組織委の主要ポストは国や東京都の出身者や出向者が占め、過去に五輪や国際イベントの運営に携わった幹部はほとんどいなかった。
スポーツイベントのド素人に、カネ集めやスポンサー集めができるわけがない。各業界にパイプを持つ広告会社に、カネ集めとスポンサー集めは全面的に頼ることになる。
しかも、広告業界には長年培われてきた商慣行がある。
広告業界のガリバー的存在の電通がテレビ局などとの間に入ってほかの広告会社に仕事を回すのは業界慣習で、五輪でも組織委と電通は「一体」とみなされていた。
東京五輪は電通がオンブにダッコしていた。汚職事件に続く談合事件の中核には電通がいる。談合事件は、仕事を分け合うという広告業界の普段の業界モデルを浮かび上がらせた。
東京都は電通など3社を指名停止とした。大阪府と大阪市、2025年大阪・関西万博の運営組織「日本国際博覧会協会」(万博協会)も、電通の入札参加資格を停止した。
これで五輪関係の捜査は打ち止めか。竹田恒和元IOC会長や森喜朗元首相には捜査の手は伸びなかった。
(つづく)
【森村 和男】
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