2024年11月24日( 日 )

ミラノのデザイン展に出展 日本のものづくりへの高評価に応え続ける

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(株)アダル
代表取締役社長 武野 龍 氏

 今年で創業70周年を迎える地場トップクラスの老舗家具メーカー(株)アダル。創業以来、使う人の気持ちや使われる場面をイメージしながら商品と接し、顧客に提案することを理念として掲げ、独創性の高い企画・デザインから設計・制作・流通までを自社で行い、顧客満足度の高い商品を提供してきた。近年はイタリア・ミラノのデザイン展に出展するなど新たな事業展開を進めている。家具業界の現況や今後の展望などについて、代表取締役社長の武野龍氏に話を聞いた。

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

時代に左右されない原理原則

(株)アダル 代表取締役社長 武野 龍 氏
(株)アダル
代表取締役社長 武野 龍 氏

 ──今年創業70周年を迎えます。これまでの財産を引き継いで守りつつ発展させていくことは大変かと思いますが、いかがでしょうか。

 武野龍氏(以下、武野) 当社の武野重美会長が常々言っておりましたが、商売の原理原則は普遍的なものであり、ものをつくってそれを適正な価格で販売するということはいつの時代も変わらないと思います。文章は手書きからパソコンに、連絡はファックスからメールになるなど、デジタル化により現代的な便利さが向上しています。それによりお客さまとの関わり方は変わっていきますが、それは時代に合わせて当社も変えていきます。

 ──貴社はあくまで業務用に特化していますが、お客さまの志向や貴社への期待についてどう感じていますか。

 武野 一般消費者向けになるとマーケットは一気に広がりますが、ただそこで求められるクオリティや価格などはギャップがあるように思います。かつてはどこの家庭にも応接間があり、そこに一番いい家具が置かれることが当たり前でしたが、現在では「住宅には応接間」という価値観がなくなりました。家具に対する捉え方が、長く使える耐久消費財から、引っ越しのたびに買い替える消耗品へと変化しています。そうした一般消費者の求めるものと、我々の目指すものは違っているように思います。

 ──業務用を主軸とした枠組みは今後も変わらないということですね。

 武野 当社が納品するお客さまの店はオープンから2、3年は間違いなく続いていくものであり、家具は壊れてはいけないという前提は今後も変わりません。家具のサブスクリプションが普及していくにしても、そこでも大事なのはやはり耐久性です。業務用家具の市場においても耐久性は重要であり、そのことが市場を広げてくれるものと思います。

海外で評価される日本文化

 ──貴社は1991年ごろ、いち早く中国市場の将来性を見出し、それから約30年経ちました。中国は成長にともない人件費が上昇するなど事業環境は大きく変わりましたが、コストダウンという点で製造の中国依存は成り立っていますか。

 武野 中国では人件費などが上昇していますが、現在も地方は都市部ほどには上昇しておらず差があります。ベトナム、タイなどと比較すると中国の人件費は高騰したといえるかもしれませんが、まだ中国以外の国での量産は選択肢も少なくオーソドックスな選択ではないように思います。

 ──中国政府も付加価値のともなわない製造業の振興に力点を置かなくなりました。貴社は現地に関連企業を有し、他社とは違うとは思いますが、中国の製造について当面見直しはないということですね。

 武野 中国において、製造業と一口に言っても当社のような家具製造もあれば、医療関係やバイオなどもひしめきあっており、そのなかでよい人材をいかに確保していくのかが大きな課題となっています。

 7年前からイタリアのミラノデザインウィークへ出展を始めており、新型コロナウイルス感染症の影響で実際に出展したのは4回ですが、視野を幅広くもって事業展開を進めています。インテリアの業界で日本のデザインは大変注目を集めています。海外で実際に商品を並べてみると、国内で聞いていたものとは異なる反応があると実感しています。たとえば海外のお客さまの日本のデザイン性やものづくりなどに対する評価や、商品が生まれた背景に関するストーリーに対する反応には、日本国内での想像を超えたものがあります。ミラノでの出展で実感していることは、日本の文化や伝統が非常にリスペクトされているということであり、日本人よりむしろ外国人のほうが日本のことを好きなのではと思えるほどです。

 ──海外に出て初めて日本がリスペクトされているのだと気づくことが多いのですね。

 武野 現地に行くまで、外国の方も日本のことを好きなのではと思ってはいましたが、「こういうのが好きなんじゃないか」という見せ方にずれがあると実感しました。たとえば、畳について、外国の方は畳の折り目の細やかさなどをじっくりご覧になります。そうして初めて日本に対する評価がどのようなものか気づかされました。日本人は自国にいると他国からどう見られているか気が付きません。直接現地に出展することで、外国の方のニーズを知ることができました。ミラノデザインウィークには世界中からバイヤーが来訪します。プレスリリースも行われます。近年は日本人のデザイナーが活躍しています。当社は3年連続で出展しており、「また出展されたのですね」などと声をかけられることがあり、認知度が上がってきたように思います。

 問題は、海外のお客さまからの引き合いに対する輸送費コストなどです。当社の商品は初めから1コンテナ分を買ってもらえるようなものではなく、プロジェクトを組みながら、1コンテナ分納品するための動きが必要となることもあります。海外市場におけるキーマンを見つけるのに数年かかりました。リストを用意して展示会にお客さまにきてもらい、そこから新たな展開を図っていくことでもう一段階ステップアップできると思います。

 ──ミラノで知り合ったバイヤーとの取引について、どのようなビジネスをしているのでしょうか。

 武野 まず、バイヤーらのプロジェクトに参加させてもらうことです。それから海外における代理店になってもらうことです。この2つのルートで進めていっています。ヨーロッパを中心に中近東、東南アジアからも話がきています。

アダル総合工場
アダル総合工場

エリアごとに異なるニーズ

 ──無限の可能性を秘めた海外市場への展開を進めながらも、一番の市場はやはり日本だろうと思います。日本におけるコロナの影響はありましたか。

 武野 業種・業態やエリアによって差がありました。たとえば飲食業が悪いかというと、お酒メインの店は出店を控えましたが、一方でテイクアウト業態の店は好調でした。ホテルに関してはコロナ禍で需要がなく新しいものは建てられませんでしたが、老舗のホテルなどでも休業中に改装を行っていたところもあります。国の行動制限も解除され、インバウンドの復活や大阪万博の開催など期待感は高まりつつあります。全国旅行支援などもあり、需要が戻りつつあるように思います。

 現在は、ホテルとオフィス関連のお客さまという2つの業種では、業績を堅調に積み上げています。やはり東京都市部における売上がほかのエリアよりも大きくなります。ホテルの1人あたりの売上の限界値はあると思いますが、福岡であれば部屋数が50室でも、東京へ行けば100室になるでしょうし、施設数も福岡と東京では比べ物になりません。

 オフィスに関しては、近年東京のオフィスビルは3年前後の改修期間を要するリニューアルなど大型案件が続いており、その需要で受注をいただいています。事務機のメーカーや設計事務所からのオファーが中心です。従来はレストランなどに置かれていた機能性の高いチェアーのオーダーなども増えていて、内装工事会社と連動した受注体制を構築しています。東京、大阪、福岡と地域によってさまざまな特徴の業態、業種があります。アダルとして特定の業種に注力しようというよりも、エリアごとにそのニーズに合った営業戦略を構築していきたいと考えております。

 また、この数年、ウェブに積極的に投資しており、当社に対する認知度やお客さまに対する訴求力は格段に上がっていると思います。飛び込み営業も行っていますが、ウェブを通じてのアプローチのほうが、明らかに確度が高いです。何より良いのは、お客さまは当社のホームページを見てからきてくれるので、すでにある程度商品に対して理解されているという点です。それにともなって商談のスピードも従来に比べて30%くらい早くなっていると思います。

 ──かつてのように、施主につきあいながら進めていくというやり方から、大きく変わりましたね。

 武野 かつてのプロセスは、口伝に新たなお客さまを紹介してもらい、アポイントをとって会いに行き、商品説明を行うというものでしたが、それが格段に短縮されました。もちろんお客さまに会って説明するという時間は、昔も今も変わっていません。
 コロナ以前は、工事業者の事務所を訪問すると、「アダルさん、ちょうどいいところにきたね」と声をかけられたり、現場に行くと、「次にこのような案件があるから頼むね」と紹介されたりというコミュニケーションができていましたが、コロナの行動制限で人と人とのつながりが寸断されるなか、お客さまに会えず、別のお客さまを紹介してもらうこともできませんでした。そのことが一時期、業績が下がった最大の理由だと思います。しかし、ウェブを通したお客さまが増えてきたことで回復してきました。

 ──今年度の業績見通し、今後の人材採用はいかがでしょうか。

 武野 売上高目標は間違いなく達成します。採用に関しては、毎期一定数の人材が入社しています。主に新卒で採用しており、工場勤務、営業合わせて毎年約10名採用しております。学部は理系にこだわらず、不問にしています。工場には特別支援学校からも見学にきており、聴覚障がいをもった人も採用していて、皆一生懸命働いてくれています。聴覚障がいの社員はマスクを着用していると、相手の表情から気持ちを読みにくく、仏頂面になっていましたが、マスクを外して作業を行うようになったらコミュニケーションが増えて、後輩への面倒見もよくなるなど、よい変化が生まれているのを実感しています。この数年は、コロナで学生が就職活動を積極的に行えない状況でしたが、地方営業所などは即戦力を求めており、随時、中途採用で補強しております。

アダル本社
アダル本社

    ──最後に今後の抱負をお聞かせください。

 武野 来年で社長に就任して10年になります。リーダーとして指示していくだけではなく、若手の人たちの考えなどを確認しながら一緒にやっていくことも大事だと考えています。私自身も学び続けて、社内外で積極的にコミュニケーションを図り、商品・サービスの付加価値を高め、お客さまの求めるニーズに応えていきたいと思います。

【文・構成:近藤 将勝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:武野 龍
所在地:福岡市博多区金の隈3-13-2
設 立:1968年4月
資本金:1億8,225万円
売上高:(22/3)62億1,836万円
URL:https://www.adal.co.jp/