『傍流が本流になるとき』筑水キャニコム社長講演会
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2月24日、西鉄グランドホテルにて福岡商工会議所工業部会の講演会が開催され、(株)筑水キャニコム(以下、キャニコム)の包行良光(かねゆき よしみつ)社長が「『傍流が本流になるとき』~第二創業を目指して~」と題して講演した。
キャニコムは1948年創業、草刈機をはじめとする農業・土木用の作業・運搬車の製造メーカー。草刈機「まさお」がネーミングのインパクトもあって有名。本社は、うきは市にあり、他に国内7拠点、海外4支社、従業員280名を擁する。2022年は売上高87億7,000万円を計上。23年は売上高100億円超え達成を見込んでいるという。22年売上高の53%は海外だ。
なぜ傍流の商品をつくり続けるのか
包行社長は3代目。15年に社長に就任したが、いまだに自分は傍流であると自負している。本流は父親の会長であり、自分は日陰の存在だという。この自負には、常に傍流としてのニッチな新製品をつくり続けることにキャニコムの挑戦の本質があるという包行社長の思いが込められている。
有名な草刈機「まさお」は汎用草刈機だが、さまざまな現場や要望に特化した草刈機を次々に開発する。多種多様なキャニコムのものづくりのヒントは、お客さまのボヤきにある。たとえば、作業しながら運搬をしたいという声から、同社いわく「亀よりも遅い」果樹運搬車を開発した。ノロノロと動く運搬車の後ろをついて歩きながら果樹の収穫作業ができる。また、楽しく草刈りがしたいという声から、デザイン重視の草刈機を開発。従来の農作業機械のイメージとはまったく異なる赤いボディカラーを採用することによって、グッドデザイン賞を受賞。それが草刈機「まさお」である。同社は作業機械としての機能性ばかりではなく、作業者の「もう1つのニーズ」に注目したマーケティング戦略で、商品の差別化を成功させた。
些細なニーズを追いかけ、傍流としてつくった多くのもののうち、長期的な利益につながったものが本流になる。傍流をつくり続けること以外に会社を支える主力商品は現れないというのが包行社長の認識だ。その戦略は、結果として多くのニッチ商品を生み出し、海外進出に際して各地の需要に見合った商品を開発するノウハウを社内に培うことになった。
キャニコムの海外戦略、草刈需要はこれからも増加
キャニコムは前社長(現会長)の時代から海外進出に積極的であった。海外戦略はオリンピックのメダルが多い国から攻める方針で、農業機械とはいえターゲットは発展途上国ではなく、先進国の作業者のニッチなニーズに注目する点で販売戦略は一貫している。ただし、包行社長がキャニコムに入社した04年、当時の売上は40億円、うち海外分は5%に過ぎず、アメリカ支社は事業がうまくいっていなかったが、前社長がアメリカ進出について強いこだわりがあったため、入社早々にアメリカ支社に配属された。その後、09年、韓国進出、10年、中国進出を経て、14年には再度アメリカ撤退の危機を乗り越えて、先述の通り、22年にはついに海外売上が全体の53%に達した。
海外戦略の成功もニッチな需要に注目して傍流をつくり続ける方針が根底にある。たとえば、アメリカのトウモロコシ畑用大型スプリンクラー機械用の大型タイヤを運搬する機械、そんな特化した需要でも採算がとれるのかと驚くくらいニッチである。しかし現地の需要を深堀した製品開発は、インドネシアのパーム油用の運搬機械や、海外の熱帯地域で多く生産されるドリアンやマンゴーの栽培農地専用草刈機などを生み出していく。草刈機なら、牧羊場専用草刈機というものもある。世界的なブームであるラム肉のもととなる羊は、12cm前後の高さの草しか食べないため、それに適した高さに刈りそろえる草刈機だ。日本ではリンゴ農園専用の草刈機などもある。リンゴ農園では、果樹が実る季節になると枝を支える支柱を農地内に立てねばならないため、草刈機を入れるスペースが狭くなる。それに対応できる草刈機をつくった。草刈機だけで世界中でそんなにニーズがあるのかと驚くが、温暖化の影響もあって、世界の平均的な年間草刈回数が年5回から、年7回に増えているという。草刈は成長分野なのだ。
好調な売上増加を背景に、21年には新工場を稼働した。総工費は42億円。ドイツの工作機械メーカーから最新の工作機械を導入した。今年7月に第2期工事に入る予定である。
3代目の事業継承を飛躍の足がかりに
2代目の現会長は奇抜なネーミングによって商品知名度と、確かな製品力によってブランドを確立し、会社を業界ナンバー1に育てた。それゆえに3代目の包行社長は「自分は会社にとってどんな存在か」を常に考えてきた。たとえ国内ナンバー1になっても、時代のニーズは変わり、世界の経済情勢も変化する。世界でいかに戦うか、世界の変化に対応した事業戦略こそ自分の使命であると理解し、「会社を変えられる唯一の存在が自分である」と3代目の覚悟を決めた包行社長とキャニコムは、これからも成長を続ける。
【寺村朋輝】
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