車載電池市場で存在感を強める「リン酸鉄バッテリー」(前)
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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏リン酸鉄リチウムイオンバッテリー(LFP)のシェアが拡大
EUは2030年を期限にガソリン・ディーゼル車の新規販売禁止を発表しているし、その他の各国政府も競うように脱炭素の実現を表明しており、国内外でEV(電気自動車)へのシフトが一段と加速しはじめた。そんな中、車載電池市場ではCATL, BYDなど中国企業が注力するリン酸鉄リチウムイオンバッテリー(LFP)が急激にシェアを伸ばしている。CATLは世界最大の車載電池メーカーで、リン酸鉄バッテリーを大量生産している会社だが、世界的な自動車メーカーも徐々にリン酸鉄バッテリーの採用を検討し始めている。
リン酸鉄バッテリーの採用が増加し始めたのは2020年からだ。2020年3月に中国のBYDはバッテリーパックの空間活用度を50%ほど向上させたブレードバッテリーを開発した後、これを搭載した電気自動車を発売したが、大反響を呼んだ。世界最大のEVメーカーであるテスラも上海のギガファクトリーで生産中の車両にはリン酸鉄バッテリーを搭載し、中国国内とヨーロッパに販売していたが、自社のスタンダードモデルのすべてにリン酸鉄バッテリーの採用拡大を決めた。
ギガファクトリーで生産されているモデル3スタンダードレーンジプラスはリン酸鉄バッテリーを搭載したことで、価格を3万元ほど下げることができ、中国国内のEVメーカーと競合できるくらいの価格帯の実現に成功した。メルセデスベンツやフォード、フォルクスワーゲンなども、リン酸鉄バッテリーの搭載を検討している。
とくに、フォードはリン酸鉄バッテリーの採用拡大計画を発表した。フォードはミシガン州に中国のCATLと協力して、車載電池工場設立の計画を発表した。フォードは35億ドルを投資し、CATLは工場の運営を担当する。この工場で生産されるのはリン酸鉄バッテリーである。
なぜ採用が増加しているのか
リチウムイオン電池にはさまざまな種類があるが、車載用電池の現時点の主流は、三元系とリン酸鉄系の2種類だ。三元系は正極材にニッケル・コバルト・マンガン、アルミなどを利用するが、リン酸鉄系は、正極材に鉄とリン酸が使われる。三元系はエネルギー密度が高く、低温時にも比較的安定した出力が得られる半面、希少金属のコバルトを使うためにコストが高い。
一方、リン酸鉄系は発火しにくいなど安定性に優れていて、コストは安いが、エネルギー密度が三元系よりも低く、鉄なの、重い。それに低温時には出力が低下しやすい。しかし、希少金属を使わないためコスト面では三元系より30%ほど安く有利だ。さらに寿命が長いことも強みの1つ。ところが、EV市場が拡大するにつれて、価格と供給の安定性が優先されるようになった。
そのような状況下で、三元系の材料であるニッケルの価格は、ウクライナ戦争などの影響で、過去1年間で2倍以上高騰している。ロシアは世界のニッケルの約10%、EVバッテリーで使用されているニッケルの20%を供給している。その結果、価格の安い鉄(ferro)とリン酸塩(phosphate)を使っているリン酸鉄バッテリーが注目されている。
(つづく)
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