2024年11月22日( 金 )

東京海上日動「敗訴」の裁判にみる地震保険損害判定の「怪」(中)

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 地震などによる建物や家財の損害を補償する「地震保険」。万が一の備えとして多くの人たちが加入し、東日本大震災(2011年3月)や熊本地震(16年4月)などの地震災害の発生にあたって、被害を受けた人たちの生活再建の手助けとなってきた。しかし、損害の程度を判断するのは保険会社の依頼によって動く鑑定人たち。なかには必ずしも損害の状況を適正に判断、認定したケースばかりではない。そのことを示すのが、23年1月26日、東京地方裁判所によって下され、保険会社(被告)の控訴断念により2月6日に原告勝訴が確定した裁判。建物調査などを手がけ、地震保険鑑定に精通する一級建築士であり、原告側の支援にあたった都甲栄充氏に、地震保険の問題点について話をきいた。

裁判の争点は損害程度の認定方法

参考資料A
参考資料A

 裁判の争点は、建物被害の程度が「全損」であるということなのだが、そのなかで重要視されたのが、損害程度の認定をどのように行っていたか、である。 

 加入者は、「ご契約のしおり」に記載されている損害認定基準についての表(参考資料A)による情報しか与えられていない。しかし、保険会社からなる(一社)日本損害保険協会が「地震保険損害査定指針」(業界内部資料で非公開)を作成している。

図1、B
図1、B
図2、C
図2、C

 それによると、たとえば1階内壁については各入隅部を目視で被害の例示(図1、B参照)により判定し、次に損傷認定方法(図2、C参照)により物理的損傷割合を算定。最後に主要構造部について損害認定基準表(図3、A参照)により損害割合を求める。その結果、たとえば物理的損傷割合が「⑤15%を超える場合」は全損と総合判定される。

 基準表は、標準的規模のモデル建物について損害が発生した場合の、標準的復旧費用を想定したもの。これは、大規模災害で発生する一時多発的な被害建物の損傷を、バラツキがないように公平、迅速に処理するためである。東京海上側はこの基準表を適用せず独自の計算で査定しており、損傷の判断を誤っているというのが原告の主張である。

図3、A
図3、A

外見だけでは判断しづらい建物被害

 なかでも注目されたのは、建物被害が外見のチェックだけでは判断しづらい点だ。損害認定基準には、以下のような旨の記載がある。

 「枠組壁工法は在来(木造)軸組木造に比較して地震被害が少ないとされるが、一定以上の損傷の場合、後者と同程度の物理的損傷割合でも、前者は局部的な補修では回復度が低く、補修範囲の拡大に伴う補修費用は後者よりも大きくなる傾向になることがある。」

 つまり、T氏邸はツーバイフォー工法による住宅であり、一般的な木造住宅(この場合、木造軸組住宅)とは異なる損害確認の手法が求められたのではないかということも、原告側の主張の1つだったのである。

 東京海上側は、「建物の状態は居住に支障がなく、主要構造部に大きな被害は見られなかった」と主張していた。このことは、ツーバイフォー工法の特性に応じた損傷度合いの確認を怠り、結果として損傷を少なく見積もっていた可能性を示している。

 なお、「地震保険損害査定指針」は「業界内部資料」であって一般に公開されておらず、保険契約者(被災者)にも開示されていないものであり、「このことによりこれまで契約者が適正な保険金を受領できなかった可能性がある」と都甲氏は指摘している。

(つづく)

【特別取材班】


<プロフィール>
都甲 栄充
(とこう・ひでみつ)
1949年8月北九州市生まれ。明治大学工学部建築学科卒業。大成建設(株)、住友不動産(株)を経て、2009年(株)AMT一級建築士事務所を設立。建築コンサルタント、建築プロジェクトマネジメント、見積査定、顧問建築士、マンション工事監理などの業務を行っている。

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