2023年、中国が尖閣占領! この悪夢のシナリオに備えるために(前)
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京都大学大学院教授 藤井 聡
今、中国による尖閣侵攻というリスクが、かつてないほどに高まっている。そしてそのリスクは、ロシアのウクライナでの核使用によって最高潮に達すると見込まれる。だとすれば、2023年、中国が尖閣を侵攻するというシナリオは、相当な現実味を帯びたものとなっている。以下、その概要を解説しよう。
核恫喝を行うロシア
ロシアは核兵器を使用するかもしれない──たとえばバイデン大統領は、「ケネディ大統領時代のキューバ危機以来、アルマゲドンの予感に直面したことはない……しかしもしこの状況がこのまま続く場合、我々はキューバ危機以来、初めて核兵器使用の直接的な脅威を受けることになる」と発言している。
ロシアがウクライナへの侵略を始めた当初からロシア・プーチンは、核兵器の使用可能性を排除しない、と一貫して主張し続けている。
これはつまり、NATO・アメリカが参戦すれば、そしてその参戦の仕方によっては、核兵器を使用することを“相当程度本気”で考えていることを意味している。そして、そうなるのは、ロシアの核心的利益が脅かされる事態(たとえば、「クリミア」を含めたロシア領へのウクライナ軍が“侵攻”する事態)となる場合だ。昨今、NATOとりわけ米国の圧倒的な支援を受けたウクライナが反転攻勢に打って出て、ロシアにとって少々厳しい状況になってきたことから、そのリスクが高まってきている。
その結果、プーチンだけでなく、またプーチン大統領の側近たちも、核兵器の使用に言及するに至っており、側近たちが、「ロシアは小型核兵器を使って防衛を強化すべきだ」「ロシアは必要に応じて核兵器を使用する権利を有する」などと発言している。
これらのことは、次の事実を暗示している。すなわち、プーチン個人の異常な執着によって核兵器使用リスクが生じているのではなく、ロシア全体の国家意思の発露として、核兵器使用リスクが生じている。
NATOは参戦するのか?
もしもロシアが核を使えば、どうなるのか。もちろん、それは核の使い方によって大きく異なる。キーウに撃ち込み、そして何十万人もの死者が出れば、NATO・アメリカが直接参戦する可能性が高まる。一方で、人がいない場所で小さな戦術核を使えば、その参戦の確率は高くない。
しかし、いかなる核攻撃であろうと、またNATO・アメリカのそれに対応する手段が軍事上の参戦なのか否かは別として、NATO・アメリカがウクライナに関与する度合いは飛躍的に拡大する。
核を使用した国家に対して何の報復もできない、となれば、北朝鮮や中国、さらには将来的にイランやインドなどが核を実際に使うハードルが一気に下がってしまうことになる以上、それを食い止めねばならない、という議論が、NATOおよび米国内で一気に広がることは確実だからだ。
従って、いかにウクライナがNATO加盟国でないからといって、核攻撃までなされれば、NATO・アメリカも本気でロシアに対峙せざるを得なくなるのである。
ただし、NATO・アメリカがロシアをさら必要以上に追い詰めることになれば、NATO・アメリカもまた、ロシアの核攻撃の危機に晒されることになる。そうした恐怖心がNATO・アメリカ内で広まることも確実だ。従って、ロシアが核を使った場合、一体どのように歴史が展開していくかまったく予想できない状況となるのである。23年、中国の台湾・尖閣侵攻開始という悪夢
そして、世界がそうなったとき、習近平が台湾、尖閣に侵攻するリスクが飛躍的に高まることになる。
そもそも、かつてのアメリカは、アメリカの主戦場である欧州、中東、極東のうち、少なくとも2つにおいて「同時」に戦争を遂行する実力がある、ということを公言していた。
しかし、アメリカの相対的な国力が徐々に低下してきたため、それは事実上不可能だろう、と軍事専門家の間でいわれるようになっていった。そしてついにオバマ政権のおり、2つの戦争を同時に遂行することはできないということを、オバマ政権が公式に認めるに至ったのである。
いうまでもなく、中国、習近平は、その情報を当然、認識している。そうである以上、ウクライナの戦争にプーチンの核使用を契機としてアメリカがウクライナの戦争への関与を決定的に強化すれば、中国が台湾・尖閣に侵攻を開始しても、アメリカはそれを見過ごすことになるだろう、と習近平は判断することになるのである。
とりわけ、アメリカがウクライナ戦争に直接参戦する事態となれば、習近平は次のように考えるであろうことが予期されるのである──「今がチャンスだ!今なら、アメリカ軍の出撃は絶対ない!この機を逃してぼやぼやしていれば、ウクライナ戦争は終わってしまう、そうなってから台湾・尖閣に侵攻を開始すれば、アメリカに反撃されることになるかもしれない……だったら、これは千載一遇のチャンス、今こそ台湾・尖閣に侵攻すべき時だ!」。
そうすると、中国はアメリカと戦わずして台湾・尖閣を楽々と手に入れることができる。そして、そういう事態はまさに23年にでも起こり得る事態なのである。(つづく)
<プロフィール>
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年奈良県生駒市生まれ。91年京都大学工学部土木工学科卒業、93年同大学院工学研究科修士課程土木工学専攻修了、同工学部助手。98年同博士号(工学)取得。2000年同大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年同教授を経て09年から京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授。11年京都大学レジリエンス研究ユニット長、12年京都大学理事補、同年内閣官房参与(18年まで)。18年から『表現者クライテリオン』編集長。関連キーワード
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