2024年11月24日( 日 )

2023年、中国が尖閣占領! この悪夢のシナリオに備えるために(後)

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京都大学大学院教授 藤井 聡

 今、中国による尖閣侵攻というリスクが、かつてないほどに高まっている。そしてそのリスクは、ロシアのウクライナでの核使用によって最高潮に達すると見込まれる。だとすれば、2023年、中国が尖閣を侵攻するというシナリオは、相当な現実味を帯びたものとなっている。以下、その概要を解説しよう。

核恫喝を行うロシア

 ロシアは核兵器を使用するかもしれない──たとえばバイデン大統領は、「ケネディ大統領時代のキューバ危機以来、アルマゲドンの予感に直面したことはない……しかしもしこの状況がこのまま続く場合、我々はキューバ危機以来、初めて核兵器使用の直接的な脅威を受けることになる」と発言している。

中国は尖閣を侵攻するが、米軍は出動しない

    ただし、より具体的に考えると、台湾よりも先に尖閣が中国の侵攻を受けるリスクが十分に考えられる。

京都大学大学院工学研究科 教授 藤井 聡 氏
京都大学大学院工学研究科
教授 藤井 聡 氏

    そもそも台湾には台湾軍が常駐している。そして、その面積は、尖閣よりも圧倒的に広い。一方で尖閣は小さな島であると同時に、常駐軍はいない。それゆえ、中国にとって尖閣は、台湾よりも圧倒的に攻略しやすいターゲットなのである。しかも、尖閣を先に抑え、そこにミサイル基地などを配備すれば、台湾侵攻における重要な軍事拠点となる。こうした理由から、中国が台湾よりも先に尖閣を侵攻するリスクは十二分以上に考えられるのである。

 もちろん、日本政府は尖閣への中国侵攻があれば、米国政府に日米安全保障条約に則った米軍出動を要請する。しかし、米国は絶対に直接参戦することはない。そもそも、日米安全保障条約における米軍出動は、「米国の憲法の規定に則って」行われる、と明記されているのであり、日本への攻撃があれば自動的に米軍が出動すると明記されている訳ではないのである。つまり、米国大統領の権限で出動させない、と判断することが可能な条項となっているのである。そして、米国にとって今や中国は戦えば深く傷付き、自滅するリスクが極めて高い、世界最強の敵国となっている。このように、尖閣有事の際の米国の直接参戦はあり得ないと考えざるを得ないのである。

中国に核恫喝された日本は防衛出動できない

 そうなれば、中国に容易く占領された尖閣を取り戻すには、自衛隊の防衛出動しかない。しかし、中国はそれを想定して、次のように宣言するだろう。

 「我が国の固有の領土台湾・尖閣への自衛隊出動は我が国に対する明確な侵略と見なす。そうなれば“あらゆる手段”を講じて我が国固有の領土を防衛する」。

 いうまでもなく、ここにおけるあらゆる手段、とは核攻撃を含むものである。つまり、中国は日本を核恫喝するのである。

 もちろん、この宣言を耳にした日本政府は、ホワイトハウスに電話して、日本を核攻撃すれば、米国が報復核を中国に向けて発射する準備があると宣言してください、と依頼する。

 しかし、いうまでもなく米国はそんな宣言はしない。日米安保条約に基づく米軍の出動すら拒む米国が、赤の他人である日本のためにわざわざ核の傘を開いてやることなど、何があってもあり得ないからだ。万一そんな宣言をすれば、習近平は「中国に核攻撃をする国があれば、我々はそれが如何なる国であれ、徹底的に報復核攻撃をする」と宣言することが明白だからだ。かくして、米国領土への核の雨を恐れるアメリカは、核の傘を開くという宣言を出すことは絶対にないのである。

 そうなれば、(米国の核報復宣言を拒否することは確実である以上)核をもたない日本は中国の核恫喝に屈服するほかなくなり、尖閣を奪われたにも関わらず、防衛出動さえできず、ただ指を加えて「イカンである、尖閣は我が国固有のリョウドなのである」と無意味な声明を出し続けるほかなくなってしまうのである。

 そうなったとき、極東の軍事バランス、外交的力学は激変する。極東の覇権は米国から中国へと移ることになり、台湾も瞬く間に中国に接収されることになる。そして、これまで米国に媚び続けてきた日本人は、今度は中国に媚びを売り始め、あらゆるものが中国によって事実上の統治を受けることになっていくのだ。

 最悪の未来である。

真の独立以外に日本が助かる道はない

 以上のシナリオを回避するためには、日本が核武装するしかない。しかし、今の日本政府は「米国は日本を守る」「米国の核の傘が開く」ということを前提に防衛戦略を立て、自主防衛、核武装の議論を徹底回避し続けている。

岸田 文雄 首相
岸田 文雄 首相

    とりわけ岸田氏は、核武装の検討すら拒否している。安倍氏が生前、核武装の議論のなかでも最もハードルの低い「核シェアリング」の議論を党内で始めるように呼びかけたときも、頑なにそれを拒否している。岸田氏が総理である限り、以上のシナリオを阻止する手立てを日本はもたないのである。かくして、岸田氏的人物が総理である限り、日本は中国の属国にならざるを得ないのである。

 もしも日本が真の独立を勝ち取りたいと思うのならば、独立せねばならないという気概をもった総理大臣を誕生させることが必要なのである。そのためにも、今、一番必要なのは、現在の岸田総理にそういう気概を注入し、まったく違う人格の人間に変わってもらうか、それができないのなら、気概ある人物に総理大臣を交代してもらうことなのである。

 それが2023年にできるか否かに、日本の命運はかかっているのである。

(了)


<プロフィール>
藤井 聡(
ふじい・さとし)
1968年奈良県生駒市生まれ。91年京都大学工学部土木工学科卒業、93年同大学院工学研究科修士課程土木工学専攻修了、同工学部助手。98年同博士号(工学)取得。2000年同大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年同教授を経て09年から京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授。11年京都大学レジリエンス研究ユニット長、12年京都大学理事補、同年内閣官房参与(18年まで)。18年から『表現者クライテリオン』編集長。

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