2024年11月22日( 金 )

日本再生への3つの施策のために 官僚隷従の岸田内閣を打倒せよ(前)

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政治経済学者 植草 一秀

 岸田内閣の支持率は政権発足から1年を待たずして、自爆的な急降下を遂げた。それにもかかわらず野党には政権を追い込む勢いも面子もまるで見えない。また、防衛費GDP2%目標の表明は、日本の防衛戦略の大転換であるにも関わらず、国民の間には冷めた雰囲気が漂っている。しかし、いみじくも岸田首相が述べたように政治の結果はすべて「国民の責任」として被さってくる。2023年、国民が真剣な政治選択を取ることができるように、日本の将来を憂える植草氏に提言してもらった。

岸田の3年?野党自壊で内閣存続

政治経済学者 植草 一秀 氏
政治経済学者 植草 一秀 氏

    内閣支持率が3割を割り込んだ内閣は10カ月以内に終焉する。2006年発足の第1次安倍内閣以来、8代の内閣で例外は存在しない。岸田内閣終焉の秒読みが始まったといえる。21年9月の自民党総裁選の後、10月衆院選に続き、22年7月参院選で自公の与党が勝利した瞬間まで岸田内閣は順風満帆に見えた。衆院解散がなければ国政選挙空白の3年を迎えることとなり、「岸田の3年」到来かと思われた。

 しかし、好事魔多し。22年7月14日を転換点に岸田内閣は一気に凋落した。参院選投票日直前の7月8日に安倍晋三元首相が銃殺された。旧統一協会によって家庭を破壊された青年が怨恨から凶行におよんだとされた。これまで何も決断しなかった岸田首相は14日に突然、安倍元首相の国葬実施を決めた。国葬実施の法的根拠がないなか、国の公式行事として敬意と弔意を国全体で表明する国葬実施が、憲法の保障する「思想および良心の自由」を侵害するものであることは明らかだった。国葬にかかる国費支出が国会議決を経ないことも憲法の規定から問題視された。何よりも自民党ならびに岸・安倍一族と旧統一協会の抜き差しならぬ関係が暴露されたことが大きかった。そして9月27日の国葬実施強行は岸田内閣の支持率下落を加速させた。

 また、22年2月のウクライナ危機直後から、日本円が暴落しインフレが国民生活を襲った。政府、日銀は国民経済の非常事態にもかかわらず無為無策を貫き通している。本来なら内閣退陣となるはずのところ、政権が辛うじて存続している最大の要因は野党の自壊である。

 野党第一党の立憲民主党が国民の支持を失い続けている。旧民主党=旧民進党である「立民+希望」「立民+国民」の比例代表選挙絶対得票率(全有権者数に対する得票数の比率)は、17年衆院選の19.5%(立民10.4%、希望9.1%)から、21年の衆院選での13.4%(立民10.9%、国民2.5%)、22年の参院選での9.4%(立民6.4%、国民3.0%)へと下落の一途をたどってきた。

 立民代表(当時)の枝野幸男氏は21年10月総選挙で野党共闘を否定。共闘の対象は国民民主党と連合であると明言した。この発言を背景に野党共闘を支持する有権者が立民支持から一斉に離反。後継代表の泉健太氏が野党共闘否定路線を強化し、立民は崩壊に向かって突き進んでいる。

日本のリーダー、官僚指令を聞く力

 岸田内閣が猪突猛進の如く推進するのは、原発稼働と軍事費増大、増税の3つである。分配問題への対応が雲散霧消した一方で急浮上したのが資産所得倍増プラン。資産所得倍増で恩恵を受けるのは富裕層である。格差是正と正反対方向への看板差し替えに大多数の国民がおののいた。

 支離滅裂としか言いようがない政策展開だが、見方を変えると説明がつく。岸田首相が提示する政策は官僚機構の要望事項そのものなのだ。霞ヶ関で権力を有する筆頭が財務省。対抗馬が経産省だ。岸田首相が提示する施策の7割が財務省指令に基づくもの、3割が経産省指令に基づくものだ。

 岸田首相は23~27年度の軍事費(防衛費)を43兆円にかさ上げする指示を出した。18~22年度から57%も激増させるものだ。軍事費突出の背景は防衛省が財務省支配下にあることだ。防衛事務次官は02年以降、1人を除いて防衛庁(防衛省)出身のプロパーが就任しているが、1978~2001年は多くが旧大蔵省出身者であった。財務省にとって防衛省は数少ない支配下にある利権官庁である。

 資産所得倍増プランは財務省傘下の金融庁所管業界に対する利益供与策だ。要するに、財務省の省益を増大させる政策がオンパレードで展開されている。軍事費増大策の提示は財源問題に直結する。軍事費増大を既成事実化したうえで、財源確保のための増税論議が提示される。最終決定は数年先でも何の支障もない。財務省にとっては財源調達論議が正規の俎上に載ればしめたものである。24年税制改正協議時に本命の消費税増税策が提示されることになる。

 岸田首相の「聞く力」は「聞き流す力」かと思われたが、実態は「官僚指令を」聞く力だった。軍事費増大にともなう財源不足問題に関して、岸田首相は増税検討は「国民の責任」だと述べた。発言に批判が集まると、一夜にして「我々の責任」に言葉が置き換えられた。岸田首相は官僚が用意した原稿を読んでいるだけだ。LeaderではなくReaderに過ぎないことが明らかになっている。

(つづく)


<プロフィール>
植草 一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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