2024年11月22日( 金 )

日本再生への3つの施策のために 官僚隷従の岸田内閣を打倒せよ(中)

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政治経済学者 植草 一秀

 岸田内閣の支持率は政権発足から1年を待たずして、自爆的な急降下を遂げた。それにもかかわらず野党には政権を追い込む勢いも面子もまるで見えない。また、防衛費GDP2%目標の表明は、日本の防衛戦略の大転換であるにも関わらず、国民の間には冷めた雰囲気が漂っている。しかし、いみじくも岸田首相が述べたように政治の結果はすべて「国民の責任」として被さってくる。2023年、国民が真剣な政治選択を取ることができるように、日本の将来を憂える植草氏に提言してもらった。

アベノミクス失政10周年 暗闇の経済と賃金減少

安倍晋三元首相    12年12月の第2次安倍内閣発足から10年が経過した。安倍首相はアベノミクスを掲げ、日本経済を成長させると豪語した。また、金融政策も転換してインフレ率を2年以内に2%以上に引き上げると公約した。しかし、これらの公約はすべて実現せず、アベノミクスは無残な失敗に終わった。

 日本経済の実質経済成長率推移を見ると、1960年代が10.5%、70年代が5.2%、80年代が4.9%だった。高度経済成長の60年代に平均10%の高成長を遂げた日本は70年代に2度のオイルショックに見舞われ、成長率が下方屈折した。それでも年5%の成長を実現していた。

 転機となったのは90年。バブルが崩壊して日本経済が泥沼にはまり込んだ。90年代以降、日本経済の成長率はゼロに近い水準で推移し続けている。首相に再就任した安倍氏は財政金融政策の発動と「成長戦略」と名付けた構造政策を提示した。しかし、成長は実現しなかった。

 2013年第1四半期から22年第3四半期までの日本の実質成長率は平均値で0.8%にとどまった。民主党政権の10年第1四半期から12年第4四半期の3年間の実質GDP成長率平均値は1.6%であり、経済成長率は民主党政権時代から半減した。民主党政権時代の日本経済は「暗がり」状態だったが、「暗闇」経済に転落したといえる。

 安倍氏は雇用が拡大したことを強調したが増加の中心は非正規雇用である。一方、アベノミクス下の12年から17年までの5年間に法人企業当期純利益は2.3倍に激増した。経済が成長しないなかで企業収益が倍増したことは労働者分配所得が減少したことを意味する。雇用拡大は、減少した分配所得を分け合う人数が増えたことを意味し、結果として労働者1人あたりの実質賃金が激減した。日本は世界最悪の賃金減少国に陥ったのである。

求められる3つの革新 最低賃金引き上げを

 岸田首相は22年5月5日にロンドンで講演し、「日本経済はこれからも力強い成長を続ける」と述べた。1990年以来、30年以上にわたって日本経済は成長していない。ドル表示の日本の名目GDPは95年を100とすると2020年が91。日本経済は縮小した。同じ期間に米国経済は2.7倍に、中国経済は20倍に拡大した。世界のなかで唯一の成長できない国が日本である。

 日本経済が成長できない理由を踏まえた対応策を講じなければ現状は変わらない。岸田首相がこの講演で発表した「資産所得倍増プラン」は日本経済再生に逆行する方策である。財務省傘下の金融庁が画策して政権政策プランに盛り込んだものに過ぎない。

 経済成長は技術進歩と人口増加によって実現する。いまの日本はこの双方を失っている。出生率は低下の一途をたどり、生産を支える労働力人口が減少し続け人材が枯渇している。この根本に目を向けて、事態改善の手を打たなければ日本経済凋落を止められない。岸田首相が当初掲げた「分配問題」は正しい指摘だったが、政策意欲は瞬く間に消滅した。

 事態改善には3つの革新が必要だ。分配の是正、出生率の引き上げ、教育改革だ。3つの課題を克服しない限り、日本経済の再生はない。日本経済が低迷を続けている最大の要因は格差拡大にある。国税庁発表の21年民間給与実態調査によれば、1年を通じて勤務した給与所得者のうち21.4%が年収200万円以下、53.6%が年収400万円以下である。所得の少ない労働者が激増している。

 景気を良くするための特効薬は、所得の少ない階層の人々の所得水準を引き上げることだ。所得の少ない人ほど、所得に占める消費支出の割合が高い。高額所得者は所得の一部しか消費に回さない。格差拡大が消費を全体として低迷させ、経済活動を停滞させる原因になっている。すべての労働者に保証する所得の最低ラインを大幅に引き上げることが消費需要を拡大させて経済活動を活発化させる。

 分配格差を是正する決め手は最低賃金の引き上げだ。最低賃金を全国一律で1,500円に引き上げる。年間2,000時間労働なら年収は300万円になる。夫婦共働きなら世帯収入が600万円になる。全国一律の最低賃金は地方で働くインセンティブを増大させ、地域振興にも有益だ。

 もちろん、最低賃金引き上げを企業負担で実現することは不可能だ。だからこそ政府の財政支出により賃金支援を行うのだ。1,000万人の年収を1人100万円引き上げるのに必要な金額は10兆円。少額ではないが、無駄な予算を削ぎ落とし、最低賃金を大幅に引き上げる施策に予算を重点配分すべきである。

(つづく)


<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
政治経済学者 植草 一秀 氏1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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