2024年12月23日( 月 )

日本再生への3つの施策のために 官僚隷従の岸田内閣を打倒せよ(後)

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政治経済学者 植草 一秀

 岸田内閣の支持率は政権発足から1年を待たずして、自爆的な急降下を遂げた。それにもかかわらず野党には政権を追い込む勢いも面子もまるで見えない。また、防衛費GDP2%目標の表明は、日本の防衛戦略の大転換であるにも関わらず、国民の間には冷めた雰囲気が漂っている。しかし、いみじくも岸田首相が述べたように政治の結果はすべて「国民の責任」として被さってくる。2023年、国民が真剣な政治選択を取ることができるように、日本の将来を憂える植草氏に提言してもらった。

日本が消滅する? 出生率上昇への施策

 人口減少の最大の要因は出産に対するインセンティブの低下にある。日本の出生率は低下の一途をたどり、人口減少に歯止めがかかっていない。米テスラCEOのイーロン・マスク氏は22年5月7日に「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」とツイートした。

 21年の日本の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は1.30と6年連続で低下した。出生数も過去最低を更新。安倍首相(当時)は15年9月に「新3本の矢」なる施策を提示した。戦争法の強行法制化に対する批判をかわすために急ごしらえで提示した施策だったと見られる。そこで提示された目標は「名目GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」だった。

 GDP600兆円には遠くおよばず、介護・看護による離職は20年時点で7万人を超えており、目標は達成されていない。希望出生率は若い世代の結婚や出産の希望が叶ったときの出生率のことで、評価は容易ではないが、現実の出生率そのものが低下の一途をたどっており、目標は達成されていない。

 出生率を引き上げるには2つの施策が必要不可欠だ。第1は若年層の所得水準の引き上げ。先述した最低賃金引き上げが有効な施策になる。生活が苦しく、結婚や出産という人生設計を描けない状況が強まっている。第2は出産、育児に対する公的支援の拡充だ。社会保障支出の機能別分類のデータは、日本の社会保障制度において、とりわけ「家族」への公的支出が劣後していることを示す。子どもに対する政府の社会保障支出が著しく貧困なのだ。

 フランスが出生率の劇的な改善を実現したが、大きな要因として、子育て世代を中心とする家族向け社会支出を手厚くしたこと、ならびに非婚女性の出産に対してもサポートする社会制度などを拡充したことが挙げられる。日本では出産・育児、子育てに対する公的支出が貧困であるだけでなく、公的支出が母親という「個」を対象とせず、「家」という「世帯=戸」を対象としている。出生率について、子を産む「母」に対して既婚、未婚を区別なく給付対象とすることで改善につながることがフランスの事例でも明らかになっている。直ちに抜本策を講じなければマスク氏の予言が的中することになるだろう。

軍事教練式教育からの脱却 岸田政権には期待できず

岸田首相    人材の枯渇は教育の問題だ。日本の教育は依然として軍事教練の延長線上にある。目上の者の命令に従順に従い、文句を言わずに言われたことだけを忠実に実行する服従型人材の育成だけが目指されてきた。独創性、多様性を発揮する自由で伸び伸びとした人材育成のために、教育の在り方を根本から変えるべきときがきている。

 日本が得意としたのは組み立て加工型の製造工業であり、日本型の教育制度はそのための均質で勤勉な労働力の供給に寄与したといえる。しかし、世界経済の成長の源泉が新しいテクノロジーに移行した途端、日本の優位性は消滅した。メガテックの分野で日本は完全な後進国に陥った。

 軍事教練のくびきを外し、自由で闊達な子どもの成長空間を創出しなければ、日本から有為な人材が輩出される可能性は消滅することになるだろう。

 分配問題の是正、出産・子育てへの全面的な支援、教育制度の根本改革が急務だが、これを岸田首相に求めることには無理がある。岸田首相は官僚機構の指令にしか聞く力を発揮しない。

 株式投資課税軽減策は金融庁傘下の金融業界の要望事項であって国策に沿う施策ではない。金持ち優遇は格差是正に逆行するもの。年収1億円を超えると税負担率が低下するいびつな所得税制度を是正するには株式譲渡益・利子配当所得分離課税の見直しが必須だが、岸田内閣は是正の方針を示さない。「岸田の3年」が「岸田の残念」に転じる気配が濃厚だ。

軍備拡大は愚策 国民の声を聞く政権を

 岸田首相が注力するのは原発稼働推進と軍事費増大、その先の増税である。既述の通り、岸田首相は23~27年度の軍事費を43兆円にかさ上げする指示を出したが、軍事費は利権支出の典型だ。軍事装備品の価格はあってなきが如し。超高額の価格に巨額リベートが隠されている。軍事費膨張策は関係者の利権収入を増やすことが主目的と考えられる。

 日本の軍事費は20年の国別ランキングで世界第9位の軍事大国であり、戦力を保持しないことなどを明記した憲法に違反している。

 「日本を取り巻く安全保障環境が激変した」と喧伝されているが、日中関係悪化の契機になった尖閣海域での中国漁船衝突事件は、日本政府が日中間の尖閣領有権問題「棚上げ合意」を破棄して、尖閣海域の漁船取り締まり方式を「日中漁業協定基準」から「国内法基準」に一方的に変更して創作したものだ。自ら安全保障環境を悪化させて軍事費増大の口実を創作するマッチポンプの典型だ。

 平和と安定を確立する王道は近隣諸国との友好関係構築であって、軍備拡大は戦争リスクを高める愚策だ。経済無策の岸田内閣が官僚に自由自在に操られて東アジアの緊張を高めるのは日本国民にとって悲劇である。日本の主権者たる国民が、利権拡大にしか関心をもたぬ政権に終止符を打ち、国民の生活と平和を守る新しい政権を樹立するために行動を起こすべき時機が到来している。

(了)


<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
政治経済学者 植草 一秀 氏1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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