2024年12月22日( 日 )

ウクライナへの電撃訪問の前に岸田総理がインドを訪問したワケ

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、3月24日付の記事を紹介する。

インド ニューデリー イメージ    ウクライナ戦争は出口が見えません。そんな中、5月に広島でG7サミットを主催する岸田首相は、ウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と面談し、日本からの一層の支援を約束しました。

 同じころ、中国の習近平国家主席はモスクワでプーチン大統領との首脳会談をこなし、極東の大規模資源開発で合意しています。というのも、日本を含め欧米諸国がロシアへの経済制裁を強化しているため、ロシアは中国やインドに石油や天然ガスを安価で大量に輸出するようになっているのです。

 これまで中国にとってはサウジアラビアが最大の原油提供国でした。しかし、昨年、状況が一変することに。今やサウジアラビアを抜いて、ロシアが中国にとっての原油の最大の輸入元になったのです。何しろ、昨年、ロシアの対中国原油輸出量は24%も増加しています。

 そうした経済的つながりを背景に、習国家主席はプーチン大統領との間で、金融、農業、原子力発電、デジタル経済、航空宇宙産業、北極圏探査、観光、教育など幅広い分野での協力事業を進めることでも合意に至ったわけです。

 日本でも世界でもウクライナに関心が寄せられていますが、この間、ロシアも中国もインドをも巻き込むかたちで、アメリカに対抗する連携プレーにまい進していることを見逃してはなりません。

 実は、国連総会でのロシア非難決議案に対して、インドは棄権を重ねています。なぜなら、インドとロシアは準同盟関係にあり、モディ首相とプーチン大統領は10回以上の会談を重ねているからです。日本では話題になりませんが、プーチン大統領はニューデリーを訪問し、「インドは偉大な友好国で歴史に裏付けられた関係」とまで絶賛。

 両国は冷戦時代から友好関係にあり、1971年には平和友好協力条約を締結しており、これまでもインドが関わる戦争にロシアは味方してきました。その恩返しでしょうか、インドは経済制裁を受けるロシアの原油を安く輸入する道を選択しているわけです。

 コロナ禍に際しては、ロシアは自国製のワクチンをインドに提供し支援してきました。要は、助け合う間柄なのです。しかも、最大の絆は「軍事的依存関係」に他なりません。

 実は、インドは旧ソ連製の武器を大量輸入しており、インドの保有する兵器の85%はロシアが提供してきたと言われています。というのも、インドは中国とヒマラヤ山岳国境線で軍事衝突を繰り返しており、ロシア製の武器が頼みの綱となっているからです。

 インドはイギリス、フランス、イスラエル、アメリカからも武器の輸入を拡大させていますが、ロシアの兵器が圧倒的に安く、保守点検を含めてロシア依存からは脱却できそうにありません。

 とはいえ、インドはロシアとアメリカの間で地政学的なバランス外交を模索し、「非同盟諸国連合」の中心的役割を果たそうともしています。QUADのメンバーとしてアメリカや日本とも連携し、中国包囲網の一翼を担うという戦略に他なりません。

 ロシアのウクライナ侵攻以来、モディ首相はプーチン大統領ともゼレンスキー大統領とも電話会談を重ねています。アメリカの意向に沿うように、ゼレンスキー大統領とは「滑り込みセーフ」のように面談は実現したものの、一方の当事者であるプーチン大統領とは話し合う姿勢を見せない岸田首相です。

 その意味では、インドのモディ首相の進めるバランス外交は、長年、イギリスの植民地とされた歴史に裏付けされた独自戦略の賜物かも知れません。今回のインド訪問で、岸田首相はインド太平洋地域への750億ドルの投資と円借款の提供を申し出ました。

 何とか、インドの協力を得ることで「グローバル・サウス」を味方につけようとの発想に違いありません。すでに人口規模で中国を抜き、世界最大の市場を形成するようになったインドです。日本経済にとっては中国以上に潜在力が高いと思われます。G7にこだわらず、今後の成長が期待されるG20を取り込むためには、インドとの協力、信頼関係が極めて重要になるはずです。

 次号「第336回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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