2024年11月29日( 金 )

フランス革命、ふたたび?!

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 プラカードを手に通りを埋め尽くす群衆、あちこちで上がる炎、『スターウォーズ』のダース・ベイダーよろしく、真っ黒な重装備に身を包んだ機動隊、発砲される催涙弾の音と立ち上る煙、振り下ろされる棍棒、怒声と悲鳴、血を流し地面に引き倒される人々…。フランスはいま、ドラクロワも描いた1789年の大革命前夜の再来かとみまごう様相を呈している。

「大規模な抗議デモがフランスを席巻:全国で350万人が抗議、パリだけで80万人がデモ(労働総同盟の発表による)」 

「警察から催涙弾を浴びるデモ参加者の群れ。フランス・パリの交差点にて」

「リールでの年金改革に反対するデモの最中に #France3 が撮影した動画。機動隊員が若いデモ参加者の頭を故意に足で踏み潰している。」

「国民の70%以上がマクロンは民主主義をやめたと考えている。見よ、これが独裁者の答えだ。 機動隊が高齢のデモ参加者を殴る姿は、あなたのテレビに決して映し出されることはない。政府はあなたが無知であることを必要としている。そうなってはならない!」

 事の発端は、マクロン政権が今年1月10日に発表した年金改革法案である。業種に応じて様々であった定年退職年齢を一律にしたうえで、年金受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げるとともに、満額受給のための保険料拠出期間を41年から43年に延長するというのがその骨子だ。

 マクロン大統領は、華々しい初当選を果たした2017年から、「『拠出された1ユーロが、拠出した人の身分に関係なく、いつ支払ったかにもかかわらず、同じ権利を与えるものとなる』ような、そんなポイント制の普遍的な年金制度の構築」(フィガロ)をうたい、年金改革に取り組んできた。そこでは定年や受給額は変更がないようにするとのことだったが、政府はその約束を覆し、生まれた年やキャリア、職種によって大きな不平等をもたらす制度に改悪するつもりかと、国民の猛反発を呼び起こしたのである。

 直後からフランス各地で大規模な同時抗議デモが起こるようになった。6回目の3月7日には、「France à l'arrêt(フランスを停止させよ)」を合言葉に、交通機関や学校、公共サービス、エネルギー、運送、医療などあらゆる業種の労働者が参加するゼネストに突入。抗議デモには現役労働者のみならず大学生や高校生などの若者たちやシニア世代も参加し、その数は首都パリの70万人をはじめ全国で350万人にも上った。

 政権が「49.3(憲法49条3項)」──財政や社会保障に関わる法案について、首相は議会での審議を中止し、議員たちの採決を経ずにこれを成立させることができるという規定──を行使して法案成立を強行(3月16日)、これを押しとどめる唯一の方法である、議員らによる「motivation de censure(問責決議案の動議)」も僅差で失敗に終わる(3月20日)と、国民の抗議行動はさらに拡大した。政権はこれに機動隊を投入して沈静化を図る。そしてついに、冒頭にて引用した動画に映し出されているような、国家権力による暴力が、国民に対してふるわれるようになったというわけである。

 マクロン大統領はその1期目から、大企業・富裕層のみが優遇されるような政策──「マクロン」と「専制(ティラニー)」をかけて「マクロニー」と呼ばれる──を次々打ち出してきた。国民はこれに対して声を上げてきた。18年11月から19年6月にかけて盛り上がりをみせた「Gilets jaunes(黄色いベスト運動)」は、日本でもよく知られていよう。いまや生存権すら脅かす改革を力づくで押し通そうとする同大統領に、フランス国民は、230年前に自らの手でギロチン台に送ったルイ16世を重ね合わせている。

「現在、世界のメディアはほとんど報じない。『ラ・マルセイエーズ』がマクロンに対して上がる鬨(とき)の声へと変わる時、目を逸らすことなかれ。彼らは諦めてはいない。マクロンが少しずつ削ぎ取ってきた民主主義を取り戻すために、彼らはますます決意を固めゆく。」

※『ラ・マルセイエーズ』:フランス大革命時代に義勇兵を鼓舞するために創作された歌。のちにフランス国歌となり現在に至る。

【黒川 晶】

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