2024年12月24日( 火 )

拡大するバイオマス発電市場 輸入燃料の確保が課題に(前)

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 2021年度の国内バイオマスエネルギー市場規模(エネルギー供給量を金額ベースに換算)は前年度比約8.3%増の7,261億円(見込み)であった((株)矢野経済研究所調べ)(※1)。バイオマス発電所は燃料の多くを輸入に頼っており、なかでも輸入が大幅に増加している燃料に「パーム椰子殻(PKS)」がある。PKS燃料の生産、輸出、バイオマス発電所の最新動向について、紹介する。

パーム椰子殻輸入大幅増

 経済産業省が2021年10月に発表した「第6次エネルギー基本計画」では、30年の電源構成に占める再生エネルギーの割合を36~38%とし、そのうち5%をバイオマス発電とする目標が立てられた。30年のバイオマス発電の割合は19年比で約2.4ポイントの増加となる見込みだ。21年時点で、バイオマス発電は日本の全発電電力量の4.1%を占めているが、前年比0.9ポイント増と拡大傾向にあるという((特非)環境エネルギー政策研究所資料より)。

 現在、日本のバイオマス発電所は燃料の多くを輸入バイオマスに頼っており、なかでも輸入が大幅に増加している燃料にPKSがある。PKSの輸入量は15年の約46万tから21年には約252万tと大幅に増加した。PKSは、アブラヤシから粗パーム油(CPO)を生産する過程で副産物として得られるもので、主な生産国はインドネシアとマレーシアだ。インドネシアのPKS年間生産量は1,100万tであり、そのうち350万tが輸出されている(21年のPKS輸出額(※2)は3億4,207万ドル)。インドネシアのPKSの最大の輸出先は日本だ。

稼働するバイオマス発電所は増加傾向

(一社)バイオマス発電事業者協会(BPA)
副代表理事 谷口 博昭 氏(オンライン講演)

    「PKS、木質ペレット、木質チップなどを燃料とする『一般木質バイオマス発電』の固定価格買取制度(FIT)認定容量は17年3月まで急増していましたが、18年以降はFIT買取価格が下がったため、近年のFIT認定容量は7~8GWの横ばいとなっています」と(一社)バイオマス発電事業者協会(BPA)副代表理事・谷口博昭氏は語る。一般木質バイオマスを燃料とし、再エネのFIT認定を受けているバイオマス発電所は全国で196件であり、その内訳は容量10MW未満の中小規模発電所が123件、10MW以上の大規模発電所が73件となっている(22年3月時点)。

 一般木質バイオマス発電のFIT認定容量は7.4GW(22年3月)であるが、そのうち稼働している発電容量は2.8GW(21年12月)であり、認定を取得しても稼働していない案件も多い。しかし稼働する発電所は増加傾向にあり、「25年までに新たに1.7GWが稼働し、稼働容量は4.5GWになると予測しています」(谷口氏)という。

 政府は第6次エネルギー基本計画では、30年にバイオマス発電を8GW(再エネのうち5%)にすることを目標としている。「そのうちPKSなどの輸入燃料を含む一般木質バイオマス発電は全体の約60%となる4.8GWを占めると見込んでいます」(谷口氏)。

バイオマス発電の課題

 バイオマス発電は今、大きな2つの課題に直面している。1つ目は電力市場で競争力を高めるためのコスト削減、2つ目はFIT制度において、持続可能性の確保に関する新たな追加要件を満たすことだ。

 「バイオマス発電は、再エネの他の発電方法に比べて本来コストが高いです。一方、PKSなど輸入バイオマス燃料価格や輸送費の高騰、円安による値上がりの影響も受けているため、これらに対処できるように、成長の速い木を原料とした新たな低コスト燃料の導入、発電所の運営の効率化、設備や建設コストの見直しによるコスト削減に取り組んでいます」(谷口氏)。

 加えて、FIT制度では、バイオマス燃料の持続可能性の確保に関する新たな追加要件として、第三者認証の取得、食品と競合しないこと、原料の栽培から燃料を利用するまでの温室効果ガス排出総量「ライフサイクルGHG」の基準(※3)を満たすことが求められる見込みだ。PKSが対象となる第三者認証には、「持続可能なパーム油のための円卓会議」「持続可能なバイオ燃料のための円卓会議」「グリーン・ゴールド・ラベル(GGL)」「国際持続可能性カーボン認証」がある。「24年3月までの経過措置の期間(22年12月時点)が終了すると、持続可能性の確保に関する第三者認証を取得しなければ、FIT燃料としてPKSを輸入できなくなるため、大きな問題です」(谷口氏)。

バイオマス発電の輸入燃料の調達

イーレックス(株)燃料部燃料取引担当課長・後藤寛明氏
イーレックス(株)
燃料部燃料取引担当課長 後藤 寛明 氏

    イーレックス(株)はFIT制度の下で、合計容量約350MWのバイオマス発電所の建設・運営を行っている。FIT制度の下で運営しているバイオマス発電所は、大船渡発電所(持分法適用会社、発電出力:75MW、岩手県)、豊前バイオマス発電所(75MW、福岡県)、佐伯発電所(50MW、大分県)、土佐発電所(20MW、高知県)、中城バイオマス発電所(49MW、沖縄県)の5カ所だ。イーレックス(株)燃料部燃料取引担当課長・後藤寛明氏は、「これらの発電所では、ほとんどの燃料がPKSであるため、年間100万tのPKSを購入しています」と語る。加えて、(仮称)坂出林田バイオマス発電所(75MW、香川県)を建設中で、25年から営業運転を開始する計画だ。

 非FIT発電所としては、新潟県新潟東港に世界最大級となる発電出力300MWのバイオマス発電所を建設予定で、26年に営業運転を開始する計画だ。この発電所では、成長の速い植物「ニューソルガム」を主要燃料に使用する予定だ。「非FIT発電所では、厳しい電力価格競争に晒されるため、より安いバイオマス燃料を開発したいと考えたことがニューソルガムを導入したきっかけです」(後藤氏)。自社のニューソルガム生産工場で試験的に作付し、播種から栽培に関わっているという。

 また既存の石炭火力発電所を大型のバイオマス発電所に転換して運営することを目指し、22年8月1日に、糸魚川発電所(非FIT発電所、定格出力149MW、新潟県)の株式譲渡を完了した。ベトナムでは、バイオマス発電所14件の新設計画を進めている。

 「バイオマス発電燃料は、取引先からの調達に加えてイーレックスグループでも調達し、燃料調達先の多様化を図っています」(後藤氏)。東南アジアにおける燃料の確保拠点として設立したerex Singapore Pte Ltd、マレーシアのPKS集荷拠点のStraits Green Energy Sdn Bhd、インドネシアのPKS集荷拠点のPT Dharma Sumber Energiにより、GGL認証を取得したPKSを調達している。ここで調達した燃料は、日本の他のバイオマス発電事業者にも販売している。

インドネシアのパーム油工場
インドネシアのパーム油工場

※1 出典:(株)矢野経済研究所「バイオマスエネルギー市場に関する調査(2021年)」(21年10月28日発表) ^
※2 HSコード:14049091の合計輸出額。 ^
※3 21年以前に認定を受けた発電所には適用されない。制度開始の日程は協議中。 ^

(つづく)

【石井 ゆかり】

(後)

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