5月サミットの岸田政権の狙いと課題 国際政治から読み解く
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国際政治学者 和田 大樹
来月、広島で先進国首脳会議G7サミットが開催される。岸田首相は会議の成功に並々ならぬ意気込みを見せているが、その狙いは法の支配や人権、民主主義といった価値観を共有する自由主義陣営の存在感を強く示すことにある。
ロシアによるウクライナ侵攻、中国による対外的覇権など、近年国際社会では専制主義的な動きが顕著になり、欧米主導の自由主義陣営の影響力低下が叫ばれている。岸田首相にはそれに対する強い危機感があり、G7諸国に加えてウクライナ(ゼレンスキー大統領はオンライン参加)、インド、韓国、オーストラリアなど価値観を共有する国々を招待した背景にもそれがある。そのような意味で、今回のG7サミットは同7カ国だけでなく、自由主義陣営の未来をかけた総力戦ともいえよう。サミット後には、中国やロシアに対して強いメッセージが発信されることになろう。
そして、岸田首相にはもう1つの狙いがあるが、これは大きな難題となろう。最近、アジアやアフリカ、中南米の国々を指して「グローバルサウス」という言葉を耳にするが、今回のサミットを通じ、岸田首相にはグローバルサウスを自由主義陣営に引き付けたい狙いがある。今後の世界において、グローバルサウスでは鋭い人口増加が見込まれ、国際政治や世界経済のなかでの影響力が飛躍的に増すことが予想されることから、自由主義陣営の繁栄、そして日本の国益にとってもグローバルサウスとの関係強化が極めて重要となる。今回、グローバルサウスを主導するインドを招待した背景にもそれがあろう。
しかし、グローバルサウスと自由主義陣営の結束はそう簡単ではない。最近、グローバルサウスが欧米や中国、ロシアとは異なる「1つの陣営」のように報道されることもあるが、グローバルサウスに属する国々は自国の国益を第一に考え、それぞれ自律的に外交を展開している。欧米諸国と良好な関係を維持する国もあれば、中国と経済的に深くつながっている国もあれば、そもそも大国間対立に不満をもっている国もある。多くの日本企業が進出しているASEANでも、ラオスやミャンマー、カンボジアは中国寄りであり、南シナ海の領有権問題を抱えるフィリピンやベトナムなどは中国と経済的な関係を維持しつつも、一定の距離を保っている。また、ロシアによるウクライナ侵攻でも、ロシアに制裁を実施しているのはシンガポールのみで、ここからもグローバルサウスの複雑さが分かるだろう。
今回のサミットで、専制主義に対抗する自由主義陣営の強いメッセージを内外に示すことは難しくない。しかし、グローバルサウスを主導するインド自身もロシアとの間でエネルギー貿易を強化しているように、グローバルサウスと自由主義陣営の接近は極めて難しいといえよう。米国が超大国だった時代、国際政治では自由や人権、民主主義とった理念が前面に出ていたが、今後の国際政治において理念の存在感は薄れ、国家による実利外交、現実主義的外交が顕著になると考えられる。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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