2024年11月05日( 火 )

【白馬会議報告】コロナ後・ウクライナ後の日本の未来を問う(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 「第15回2022年白馬会議」が2022年11月19~20日、シェラリゾート白馬(長野県白馬村)で開催され、約40名が参加した。世の中を変えようという志をもった人が真剣に議論できる場所として生まれた白馬会議。今回の白馬会議では、「コロナ後・ウクライナ後の日本の未来を問う!」をテーマにして、日本を動かそうという熱意に溢れた議論が行われた。

「知行合一」の世界

 「世の中を変えたいと志を持つ人が真剣に議論できる場所を、北アルプスを仰ぐ白馬につくりたいと考えたことが白馬会議を始めたきっかけです。白馬会議で話したことが日本全体に影響を与え、日本を動かす力になってほしい。世の中に革命を起こす人が白馬会議から生まれることを期待しています」と白馬会議運営委員会・市川周氏は語る。
 白馬会議は、自力自前で物事を考えようという志を持つ個人が集まり議論する場。党派やイデオロギーに関係なく、徒党を組まず、共同宣言もしない。目指すのは、それぞれ問題意識をもち、熱意のある参加者が現場に戻って、白馬会議で議論したことを現場で実践し、次年の白馬会議でそのフィードバックについての議論をさらに深めるという、「知行合一」の世界だ。

ロシア・ウクライナ侵略と日本の安全保障

東京大学公共政策大学院教授鈴木一人氏
東京大学公共政策大学院 教授
鈴木 一人 氏

    「プーチン大統領は、2021年に米国がアフガニスタンから撤退したのを見て、米国はウクライナ問題に介入しないだろうと考えていました。また、ロシアはウクライナ市民がロシア軍を歓迎すると思い、ウクライナを短期間で占領できると判断していたため、自信をもって戦争を始め、短期戦に合わせた装備しかしてきませんでした。さらにウクライナ占領後に統治をしやすいように電気や通信インフラを残したことによって、ゼレンスキー大統領が世界に向けてウクライナの立場を発信することを可能にしました。このことはロシアにとって不本意な結果となっています」と東京大学公共政策大学院教授・鈴木一人氏は語る。

 14年、ウクライナの親露政権が倒れて親米政権が成立したマイダン革命をきっかけに、ロシアはウクライナ南東部のクリミア半島を占領して、戦争が始まった。今回のウクライナ戦争はその延長だ。

 ウクライナは欧米から武器供与を受けているが、NATO加盟国ではないためNATOの集団的自衛権の適用を受けない。よってNATOの抑止力でロシアのウクライナ侵攻を止めることはできない。国連も、安保理の常任理事国であるロシアが行う戦争を止められない。経済制裁で抑止できるという考えも幻想だった。

激変する国際秩序

 米国は内向きになり、第2次世界大戦後に築かれた、米国中心の世界秩序は終わりつつある。米国はこれまでロシアや中国の軍事的緊張に対して経済制裁で圧力をかけてきたが、今では半導体などの技術覇権戦争で中国の台頭を止めることに四苦八苦している。米国は、「アメリカファースト」で自国中心の経済政策を優先し、中国やロシアに依存しない自国のサプライチェーンの強化を図りつつある。

 一方ロシアは、グローバル化による相互依存が高まった状況を利用して、液化天然ガス(LNG)を「武器化」して敵対国の経済に圧力をかけ、政治的な関係をコントロールしようとしている。経済的な圧力によって、相手国の政治的な行動を変えさせることができるため、経済は安全保障の要となる。EUは、ウクライナ危機をきっかけとして、ロシアへのエネルギー依存、米国への軍事依存から自立を図ろうとしているが、中国への経済依存に対しては、そこまで脅威を感じていない。米国やEU、日本は、相互依存している中国に対して経済制裁を行うのは難しいと考えている。一方の中国は西側諸国への経済制裁の効果を研究しており、中国への経済依存を足がかりにして経済的な圧力をかけてくる可能性がある。

 鈴木氏の話は中国に関連して台湾問題にもおよんだ。「中国は、戦争による台湾統一は容易ではないが、台湾内部からの平和的な手段による体制転換も現実的ではないと考えています。日本は、台湾有事に備えて、中国の安全保障で重要な要素を握ることが大切です。戦闘機などに使われる炭素繊維など、中国がもっていない技術を日本はもっと増やして日中の経済関係を強化することで、中国側の対日経済の依存度が高まり、安全保障の手段となります」(鈴木氏)。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
鈴木 一人
(すずき・かずと)
東京大学公共政策大学院教授。英国サセックス大学ヨーロッパ研究所現代ヨーロッパ研究専攻博士課程修了。北海道大学公共政策大学院教授を経て現職。国連安保理イラン制裁専門家パネル委員。アジア・パシフィック・イニシアティブ地経学研究所長、国際問題研究所客員研究員など兼任。日本安全保障貿易学会会長(2017年~)。

(後)

関連キーワード

関連記事