2024年12月23日( 月 )

昨今のJR九州のダイヤ改正などの問題点(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 JR九州では、西九州新幹線が開業した2022年9月23日と、23年3月18日にダイヤ改正を実施した。その結果、福岡地区・北九州地区で運転本数の削減や編成両数の減少などにより「地域の利便性が悪化した」という意見が出るようになった。23年3月のダイヤ改正時には混雑の緩和に向けた増結は実施されず、座席を撤去することで立ち席スペースを増やす方法で対応した。
 一方、4月1日に運輸収入を改善するため、新幹線・在来線特急のグリーン料金の大幅値上げなど実施した。JR九州のダイヤ改正や料金値上げがもたらしている、利用者のニーズとの乖離状況について言及したい。

グリーン料金の大幅な値上げ

写真1 九州新幹線のグリーン車の車内設備は、非常に優れている
写真1
九州新幹線のグリーン車の車内設備は、
非常に優れている

    ダイヤ改正とは別に、JR九州は、2023年4月1日から新幹線と在来線特急のグリーン料金の大幅な値上げを実施した。

 新幹線のグリーン料金(写真1)に関しては、100kmまで1,050円、200kmまで2,100円、201km以上が3,150円であったものが、100kmまでは1,300円、200kmまでが2,800円、201km以上が4,190円と、3割以上の大幅な値上げとなった。

 在来線の特急列車の一般的なグリーン料金(写真2)は、100kmまでが1,050円、200kmまでが1,600円、201km以上が2,570円と、他のJR各社と比較すれば割安であったが、今回の値上げで100kmまでは1,300円、200kmまでが2,800円、201km以上が4,190円と、区間によれば5割以上の大幅な値上げとなった結果、新幹線のグリーン料金と同等になってしまった。

写真2 787系電車のグリーン車までは、サービス水準が高かった。
写真2
787系電車のグリーン車までは、サービス水準が高かった。

 デラックスグリーン車になれば、100kmまでが1,680円、200kmまでが2,720円、201km以上が3,770円であったが、料金値上げにより100kmまでが2,080円、200kmまでが4,760円、201km以上が6,150円と、100kmを超えた料金帯では、5割以上の値上げとなった。

 グリーン個室の料金は、100kmまでが2,100円、200kmまでが3,200円、201km以上が5,140円であったが、料金値上げにより、100kmまでが2,600円、200kmまでが5,600円、201km以上が8,380円となり、100kmを超える料金帯では、5割以上の値上げとなった。

 それ以外に、特急「かいおう」の博多~直方間の特定グリーン料金であるが、こちらは乗車距離に関係がなく、一律で320円であったが、改定後は500円へと、5割以上も値上げとなった。

 コロナ禍の減収に関しては、普通運賃や特急料金を値上げすると、利用者の負担が増大するが、グリーン車であれば定員が少なく、かつ比較的所得水準が高い人が利用するため、JR九州は反発が少ないと考えたのであろう。それゆえコロナ禍で落ち込んだ収入をカバーする方法として、グリーン料金の大幅な値上げに踏み切ったものと考えられる。

 グリーン料金が国鉄末期から据え置かれてきたのは、値上げしても増収にはならず、むしろ利用者が減少して、減収になると国鉄やJR各社が考えてきたからである。

筆者が考える改善策

 JR九州が福岡地区や北九州地区で、普通電車の運転本数の削減や編成両数の短縮化、そしてワンマン化を行うのは、コロナ禍で縮小した需要に対する要員合理化もあるが、理由はそれだけではない。国鉄時代から使用されている車両の老朽化が進んでおり、取り換え時期を迎えるようになったが、代替車を製造するだけの力がないため、老朽化した車両の廃車を進める一方で、まだ耐用年数がある車両をできるだけ福岡地区や北九州地区の運用に回すための車両捻出に、周辺地域の減便が利用されていると思われる。

 その結果、運転本数の削減と混雑の激化となって、サービスダウンが露呈してしまった。さらに福岡地区や北九州地区を離れると、車両の手入れが悪く、車体から錆が浮いた車両が運行されていたりもする(写真3)。とくにJR九州が株式の上場を行った2016年以降は、それが顕著になり始め、利用者よりも株主の方を向いて経営をする姿勢が強くなったと思わざるを得ない。

写真3 JR九州は、車両の手入れが悪い。写真は、熊本地区で使用される車両。
写真3
JR九州は、車両の手入れが悪い。
写真は、熊本地区で使用される車両。

    現状を改善するには、株式を上場して純粋な民間会社となったJR九州に対し、不平不満ばかりいうのではなく、各県が車両の製造に関して補助を出すなどの他に、郊外へ拡がった都市構造を、駅中心の都市構造へ変換を進め、JR九州や西鉄などが活動しやすい都市計画を進めることも必要ではないだろうか。資金に関しては、県債や宝くじなどを発行して調達を検討する必要がある。

 グリーン料金の値上げに関しては、料金に関する規制が「届出制」によって緩和されているため、JR九州の裁量で柔軟に価格設定が可能な制度になっている。

 グリーン車の利用者が大幅に減少した場合は、再度、JR九州が今度は値下げした新しいグリーン料金を届け出する可能性もある。この場合、単純に価格を下げるだけでなく、150kmまでのグリーン料金を設定するなど、現状に見合った料金体制としたい。

 筆者は、正規料金などを値上げするのではなく、企画乗車券類を整理することから始めるべきだったと考える。企画乗車券類も多くなれば、煩雑になるだけでなく、乗務員や駅員なども、その企画乗車券類を把握することが困難になるためだ。よって先ずは企画乗車券類を整理して、できるだけ正規運賃・正規料金で対応できるようにするのが、望ましいと考える。

 昨今のJR九州のダイヤ改正やグリーン料金などの安易な値上げは、反発も非常に多い。この事態に対応するため、JR九州は各県の自治体と連携して、補助金などを活用しながら、先ずは車両を増備して、混雑緩和と着席の可能性を拡大させることから、改善に着手する必要がある。そして車両の清掃や整備にも力を入れ、手入れが行き届いた車両を提供すべきだ。この面に対する利用者からの不満が多いことも事実であるのだから。

 今一度、顧客へのサービス意識に立ち返った、JR九州の意識改革が必要だといえる。

(了)

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