2024年11月23日( 土 )

【解説】九州電力、2,000億円の資本増強策へ

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 業績が悪化している九州電力(株)は、最大2,000億円の資本増強を実施することを発表した。燃料費の高騰により、2023年3月期は3期ぶりの最終赤字が見込まれ、財務の健全性を示す自己資本比率が10%を割り込む危機に陥っている。

 九州電力は2022年4月~9月の上半期決算で、778億円の赤字に転落。売上高は増加したものの、燃料費などのコストが増大したためだ。中間配当も無配となり、かつて九州経済界のトップに君臨していた同社の威光も失われつつある。公正取引委員会は九電や中国電力、中部電力がそれぞれ関西電力とカルテルを結んでいた疑惑があり、課徴金案を通知。その背景には、経営的に追い詰められてきた九州電力の姿がある。

 東日本大震災以降、九州電力は原発政策見直しの世論に直面し、原発再稼働の説明番組で「やらせメール」問題が発覚。原発が収益の柱である同社は13年3月期決算で、過去最大の3,324億円の赤字を計上した。その後も電力小売自由化やLNG(液化天然ガス)不足、ロシアによるウクライナ侵攻、加速度的な円安が拍車をかけ、急激なコスト上昇に見舞われた。これら逆風が続くなかで、禁じ手のカルテルにつながっていったのだろうか。

 九州電力の貸借対照表とキャッシュフロー(CF)表からは、膨張する有利子負債が目につく。2023年3月期中間では4兆円を超え、慢性的なキャッシュ不足の状態が続いている。原発依存が高い同社は、その優位性を失うと途端に脆さが露呈し、さまざまな新規事業も鳴かず飛ばずで、結局は原発頼りの経営に陥ってしまった。

 業績不振から株価も低迷が続き、企業価値である株式時価総額も縮小。09年に1兆円超の時価総額で九州トップだったが、震災後の急落でその座を久光製薬(株)(佐賀県)に明け渡した。現在では3,200億円台にまで縮小し、17年に九電以来、九州勢で初の1兆円企業となった(株)安川電機に大きく水を開けられている。福岡県に本社を置く企業に限っても、別表のように6番手に甘んじている状況だ。原発が再稼働しても、その他のマイナス要因が大きく、株価は低空飛行だ。以前とは異なり市場の目も厳しさが増している。

 21年12月に、同社は不動産運用に進出することを発表した。私募REITへの参入を目指すというが、それも付け焼刃の苦肉の策にしか見えない。

 1961年に発足した九州経済連合会の会長は、設立以来、九州電力の会長経験者が務めるのが慣例だった。それが九州経済界のトップに君臨する証でもあった。だがそれも2013年の松尾氏の退任で途切れた。没落する日本経済のなかで、さまざまな既得権を背景にした権力構造が壊れ始めている。同社の姿はその象徴にも見える。同社が失った玉座を取り戻すことは、もうないのだろう。

【緒方 克美】

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