2024年12月23日( 月 )

『脊振の自然に魅せられて』「巨木のヤマザクラの下で」

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 市街地のソメイヨシノの開花が終えるころ、脊振の山ではヤマザクラが咲き始める。ヤマザクラは群生せず、1本だけ空高く聳えている。ヤマザクラは横に縞模様があり、咲いているのを見つけるには赤紫色の光沢のある幹を見て確認するか、舞い散った花びらでヤマザクラがあるのを知ることになる。

 サクラ肌と呼ばれる樹皮は細工様に使われている。我が家にはヤマザクラの茶筒がある。
 山では、樹木同士、生存競争している。他の木よりたくさんの太陽の光を浴びようと幹を高く伸ばしている。生存競争に負けた樹木は朽ちてゆく。横縞模様の幹を確認し、空を見上げて花が咲いているのを知ることになる。ヤマザクラは遠目に見るのが一番である。山の女王らしく優美に花を咲かせている。

 4月は29日(土・祝)の山開きの準備に追われながら、そろそろヤマザクラが開花している頃ではと、心が騒ぐ。例年だと10日が見ごろであるが、今年は市街地の桜も早く咲いた。ヤマザクラはもう散り始めたかもしれない、とにかく見に行こうと仲間を誘う。8日(土)福岡県と佐賀県の県境にある背振少年自然の家から5分の距離にある小川内の大杉の場所に集合した。五箇山ダム工事で移転された幹回り10mの杉の巨木があり見学のための駐車場もある。大杉は移植保護のため鉄骨で囲まれている。

 先輩 Tを除く脊振の自然を愛する会のいつものメンバー5人(男4、女1)がここに集まった。9時に集合、福岡市早良区百道の自宅から早良区の県道の曲がりくねった山間道路を利用し1時間の距離の場所だ。林道を使って登山口へ向かう。2年前の大規模な土砂崩れで崩落した作業用の林道も修復されていた。この日は佐賀森林管理者ゲートの扉が開かず、扉横の空きスペースに車を止めた。

 林道を歩き始めると明るい陽のなかで満開のヤマザクラがみえてきた。「今日は、よかばい」と心が弾む。あいにく、この日は晴天ながら強風に見舞われ寒さを感じ、冬用のアノラックを着用したが、それでも風が吹き込むと寒気を感じていた。

ヤマザクラをバックに(池田氏)
ヤマザクラをバックに(池田氏)

 10分も歩くと登山口に届いた。ここは広くて平たい地になっており車5、6台は止められる。ここからの登山道へ入る前、仲間たちは春の樹木の山菜であるニワトコ(山のカリフラワー)を見にゆく。蕾は開いて拳ほどの大きさになっていた。食するには時期が過ぎている。
輝く太陽のなかで、緑色の実を付け我々の来るのを待ってくれている。筆者はそう感じる。
 ここから背振少年自然の家の野外活動ルートもある。どこへ続くのだろうと一度、途中まで歩いたことがある。アップダウンのきつい山道であった。

 明るい蛤水道の源流をたどって行くと、脊振山から湧き出て水量の多い沢を渡り、登りの山道へ入る。滔々とした水は五ケ山ダムへと流れ込んでいる。しばらく歩くと、黄色いトンガリ帽子のクロモジの花が我々を迎えてくれる。人の指ほどの枝にたくさんのトンガリ帽子の花をつけている。この周辺の登山道で多く見ることができる。

 クロモジのロードでもある。クロモジはほかの樹木と共生し、木漏れ日のある地に群生している。幹は香りが良いので和菓子などの爪楊枝に使われている。枝を煎じるとクロモジ茶として香ばしい茶を味わうことができるらしい。筆者たちは枝を切るのが可哀想でクロモジ茶を飲んだことはない。

 20分も歩くと、脊振かの縦走路に合流する。ここから左折して蛤岳方面へ10分ほど進むと筆者が名付けた広い空間の蛤庭園に届いた。この地は、脊振でも珍しくヤマザクラの大木があちこちと自生している。また清水も湧き出し湿地の場所でもある。

見事に咲いたヤマザクラの下で
見事に咲いたヤマザクラの下で

 目の前に高く跳びえたヤマザクラの花が飛び込んできた。青空に薄いピンクの花びら反映していた。樹木もない空間から空を広く仰みることができる。その左右にヤマザクラの大木が10本ほどある。1本、2本、3本と花を咲かせたヤマザクラが朝日に輝いて見えてくる。5mほどの高さの台地に上がると、スミレの花に囲まれた休憩場所がある。

 広そうな山地の場所へ移動した。幹廻り二抱えもあるヤマザクラの巨木を撫でながら目線を変えると、斜め前の空に見事なヤマザクラが見えた。太陽光線が逆光になっていたので気がつかないだけであった。カメラは順光になり見事なヤマザクラを見ることができた。少し歩くと、巨木の幹に空いっぱい花を咲かせたヤマザクラが見えた。この巨木は途中で幹を曲げて空に伸びている。存在感があり、山の女王に相応しい見事なヤマザクラである。女性Sが幹に思わず抱きつた。両手を伸ばしても半分にも届かないほど大きな幹である。

枝いっぱいに花を咲かせた巨木のヤマザクラ
枝いっぱいに花を咲かせた巨木のヤマザクラ

 存分にヤマザクラを堪能したところで下山を開始した。このまま直進し登山ルートへ下ることにした。等高線は緩いので歩くのは楽だと分かっていた。地図アプリで方向と確認しながら10分進み倒木の林を抜けると、先ほど歩いた登山道に合流した。

 蛤水道の源流に出て幅10㎝程のコンクリート溝の上を歩く場所がある。筆者は高齢になり身体のバランスも悪くなってきており、よろけながら渡り切った。するとドボンと音がした。振り返ると後輩Sが足を滑らし流れの速い50㎝幅の水道へ落ち込んでいた。深みはなく、膝から下のズボンの裾が濡れていた。蛤水道沿いをしばらく歩いて、林道経由で車を停めた場所に戻った。

脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

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