2024年11月21日( 木 )

日本ゴルフツアー機構のクーデター劇の顛末 主役はABCマート創業者

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 今春、男子ゴルフのプロツアーを統括している(一社)日本ゴルフツアー機構(JGTO)で内紛劇があった。ゴルフファンの注目を集めたのが、靴小売最大手エービーシー・マート(以下ABCマート)。男子ゴルフ界のスーパースターである青木功JGTO会長を追い落とすために、副会長でABCマートの創業者・三木正浩氏がクーデターを仕掛けたのだ。三木氏退任でひとまず決着したが、クーデター劇を振り返ってみよう。

「デイリー新潮」がスクープ
日本ゴルフ機構のクーデター劇

 「『青木功会長が泣き出してしまい…』日本ゴルフツアー機構で“クーデター”が、資産4,000億円の大富豪副会長と対立」。(『デイリー新潮』(2023年3月1日付))のスクープ記事見出だ。

 〈2016年から日本ゴルフツアー機構(JGTO)の会長を務める、青木功氏(80)。就任以来、男子ゴルフ界の立て直しを行ってきた“救世主”ともいえる存在だが、副会長を務める「ABCマート」創業者によるクーデターが…。青木会長は周囲に辞任を示唆している。その原因は、副会長である三木正浩氏(67)にあるという〉

 JGTOの内情に詳しい、ベテランゴルフ記者はこう解説している。

 〈JGTOでは昨年来、会長の青木さんと、副会長の「ABCマート」創業者・三木さんの対立が深まっていました。2人の関係は今やもう修復不可能で、人を介さないと会話ができないほど。青木さんは周囲に“三木さんとはもう一緒にできない”“三木さんが辞めないなら自分が辞める”とこぼしています〉

 〈異変があったのは昨年1月、谷原秀人選手が選手会の会長に就任してからだという。谷原氏は三木氏を理事に入れ、副会長に就任させるよう強引に要求。同年3月、実際に三木氏は副会長に就任した〉(前出『デイリー新潮』)

 22年3月25日開催のJGTOの定時社員総会で、青木会長の4期目の再任が決定した。新理事のリストに、女子人気に押されがちな男子ゴルフツアーの“人気復活”のためのキーマンになりそうな3名の名前があった。その1人が副会長に就任した三木氏。靴小売「ABCマート」の創業者で、現在最高顧問。佐藤信人広報担当理事はその経緯をこう説明する。

 〈谷原(秀人)選手が選手会長になり、選手会からの要望で三木さんを理事に入れてほしいと要望がありました〉

 三木副会長は、テレビ業界やゴルフ業界にさまざまなパイプをもっているという。

 〈男子ツアーをテレビの露出やニュースでもっと取り扱ってもらえるように、三木さんのパイプ、お力をお借りしたいと思っています〉

三木副会長は青木会長体制を攻撃

 JGTOは三木氏に男子ツアーをもっと放映してくれるようテレビ局に働きかけることを期待したが、三木氏はJGTOの運営を問題にした。

 〈「副会長になるや、三木さんはJGTOの運営に批判的な言動を繰り返すようになったんです。それも、理事に直接ではなく、事務局のスタッフや選手に対してです。いわく“青木体制ではダメだ””自分に仕切らせたらツアーは5試合以上は増える”“俺の言うことを聞かないとクビだぞ”“理事の人数が多すぎる”といった具合に」(ベテランのゴルフ記者)

 さらには、専務理事である上田昌孝氏を名指しで誹謗することもあり、青木会長は板挟みの状態になっていたのだ〉(前出『デイリー新潮』)

 だが、三木副会長による青木会長追い落としのクーデターが報じられると、男子ツアーのスポンサーが反発。スポンサーから降りる動きを見せる。

 三木氏の言動を問題視したJGTOの執行部は、2月22日の理事会で三木氏の解任議案を出す運びであったが、直前に三木氏が副会長と理事を辞任。3月22日開催の社員総会で、青木会長が任期満了まで続投することで決着した。

 もとはといえば、女子ゴルフの人気が高まる一方で、男子ゴルフはジリ貧状態にあることが主因。このままで男子ツアー数が減り、生活が立ち行かなくなりそうな選手も出てきた。男子ツアーをいかにして女子ツアーの人気まで高めるかで、内紛が生じた。問題は解決しておらず、内紛再燃は避けられないだろう。

成功の跳躍台はホーキンスブーツ

 三木氏は1955年7月、三重県伊勢市生まれの67歳。短大卒業後、スクエア・ジャパンに入社する。85年、東京・新宿区早稲田で靴と衣料品の輸入商社・国際貿易商事を設立した。

 ABCマートの起爆剤になったのがデザイン性に優れ、値段もお手軽なホ-キンスブーツである。当時の日本では、ブーツの主流は高価なブーツだった。値段の安いブーツはデザイン性が悪かったため敬遠されていた。三木氏は29歳のとき、ロンドンでホーキンスブーツを見つけて、日本で売れると直感した。単独でホーキンス社に出向き、粘り強く交渉した。86年にホーキンスの国内総代理店となった。

 90年に(有)エービーシー・マートを設立して小売業に進出、上野アメ横など4店舗を出店。91年、スニーカーのバンズの国内総代理店になり、94年に商標使用契約を結び、翌年ホーキンスの商標使用権を取得するなど、海外ブランドの自社ブランド化を進めた。

 2000年にジャスダック(現・東証プライム)に株式を上場すると、02年に小売業に転換。社名も(株)エービーシー・マートに変更した。ジョキングブームによるスニーカー人気を追い風に靴小売業トップへ駆け上がっていく。

 ABCマートの23年2月期の連結決算は、売上高は前期比19%増の2,900億円、純利益は74%増の302億円だった。好業績で株式市場の評価は高い。小売業の時価総額ランキング(5月12日時点)によると、6,578億円で9位。コンビニのローソン、百貨店の三越伊勢丹HDより上だ。

 三木氏は、一代でABCマートを築いた新興財界人で、資産4,000億円を超える大富豪。
 しかし、JGTOで仕掛けたクーデターが失敗に終わり、晩節を汚した。

【森村 和男】