2024年08月30日( 金 )

今年の株主総会の注目点:女性取締役不在企業は戦々恐々(後)

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 上場企業の株主総会のシーズンがやってきた。5月下旬に開催される2月期決算企業の総会を皮切りに、6月下旬に3月期決算企業の総会のピークを迎える。

 注目は、国内外の機関投資家が女性取締役の1人もいない企業に対し、取締役選任案に反対票を投じることを検討する動きが広がっていることだ。日本は全上場企業の女性役員比率が主要国と比べて低く、女性役員が1人もいない企業は対応を求められることになる。

ACGAが上場審査基準の改正を求める

役員会議 イメージ    アジアにおけるコーポレートカバナンス(企業統治)の推進に取り組でいるNPOであるアジア・コーポレートカバナンス協会(ACGA)は2022年10月、日本企業の取締役会において女性活躍が進むよう、東証の上場審査基準の改正を求める提言をした。

 具体的には、プライム市場に上場する企業に対し、(1)取締役会が同性のみで構成されている場合は上場を認めない、(2)1~2名の女性取締役の就任の義務付ける、(3)2030年の年次株主総会終了時までに女性取締役30%の達成を義務付ける、としている。

 コーポレートカバナンス・コード(CGコード)を改訂する際には、女性取締役比率について目標を盛り込む。CGコードは3年ごとに改定され、次の改訂は2024年。具体的には、プライム上場企業に対して女性取締役比率30%達成を義務付ける。

 他の上場企業に対しては、女性取締役2名の選任を盛り込む。次の改訂(2027年)には東証上場企業すべてに女性取締役比率30%の目標を適用する。

 合計資産が54兆ドル(約5,800兆円)を超える投資家団体、国際コーポレート・カバナンス・ネットワークは長期視点での社会的責任に目配りすべきだと表明した。ESG(環境・社会・企業統治)が投資の潮流になっている。「企業統治」では女性取締役の登用が鈍い日本企業への包囲網が狭まってきた。

「女性取締役不在」でキヤノンの御手洗会長が解任寸前

 キヤノンが3月30日に開いた定時株主総会(2022年12月期決算)の取締役選任議案で、御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO、87)の再任に対する賛成比率が50.59%にとどまった。“解任”寸前だったことになる。

 2022年総会の御手洗氏の賛成比率は75.3%だった。前年より24.7ポイント悪化した。御手洗氏以外では副社長・田中稔三氏が77.3%(22年総会は85.7%)、本間利夫氏が77.4%(同87.8%)と社内取締役3人はいずれも前年より賛成率が下がった。

 最大の要因とみられているのが、「女性取締役不在」の経営体制だ。これが「多様性ゼロ」と見なされてトップの再任に多数の反対票がなだれ込んだ。

 議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が多様性の欠如を理由に、御手洗氏の取締役選任案に「反対推奨」を表明していた。

 ISSは今年2月から議決権行使助言方針を改訂した。「取締役会の多様性」の基準を追加し、取締役会に女性取締役がいない会社の経営トップに反対を推奨することを追加した。その適用の第1号がキヤノンの御手洗会長兼社長への反対推奨だ。

 とはいえ、それだけでは過半数近い反対票は集まらない。助言会社の意見に左右されやすいとされる外国人株主の株主構成はキヤノンの17.7%に過ぎないからだ。それだけに、国内機関投資家や個人株主からもISSの同調者がかなり出たということだ。

 業績は堅調なのに、「女性取締役不在」を理由に経営トップが解任寸前に追い込まれたことで、東証プライム上場企業の間では「キヤノンショック」が広がっている。

 女性取締役不在の企業はキヤノンだけではないからだ。キヤノンと同様、財界の総本山、経団連会長を送り出している東レも取締役に女性はいない。トヨタの創業事業である豊田自動織機もゼロ。信越化学工業も社外の監査役はいるものの取締役は不在だ。

 今年の株主総会は、日本を代表する優良企業が「多様性の欠如」の洗礼を浴びることになる。女性取締役不在の企業トップは戦々恐々だろう。

(了)

【森村 和男】

(前)

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