ラーメンチェーン幸楽苑HD、創業社長復帰 2代目社長の失敗(後)
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現役をいったん退いていた創業者の社長復帰の記事をよく目にする。創業者の復帰で大胆な改革が期待できるが、半面、後継者育成がうまくいっていない表れである。東証プライム上場のラーメン店チェーンの(株)幸楽苑ホールディングス(HD)では、49歳の息子がやっていることに腹に据えかねて、79歳の父親が社長に復帰する。2代目社長は何に失敗したのか。
「いきなり!ステーキ」への業態転換が躓きのきっかけ
この台風19号の経験を踏まえ、昇社長は高収益体質にする「収益重視型経営」へのシフトを加速させる。その一環として、19年12月~20年4月にかけて全店舗の1割にあたる51店舗を閉鎖。“ラーメン一本足打法”からの脱却を目指し、ラーメン店からの業態転換を図る。
2代目の御曹司が成長戦略の柱に据えたのが業態転換。「いきなり!ステーキ」は、その目玉だった。昇氏は17年10月、運営会社のペッパーフードサービスとフランチャイズ契約を結び、ラーメン店の業態をステーキ店に転換、16店舗を出した。
業態転換した当時、いきなり!ステーキには勢いがあった。だが、いきなり失速する。「いきなり!ステーキ」が極度な不振に陥ったところに台風19号で甚大な被害を被った。
「いきなり!ステーキ」への業態転換は大失敗だった。
高学歴2代目は、頭で考えて現場をないがしろにしがち
そこに、コロナ禍が追い打ちをかけて、経営は低迷する。19年3月末に498店あった店舗数は、23年3月末に398店に減少。4年間で100店舗も減らした。「いきなり!ステーキ」の店舗数はゼロとなった。
そこで、転換を焼肉店「焼肉ライク」、からあげ店「からやま」、名古屋名物の辛さが売りの鍋料理店「赤から」に切り替えた。
23年3月期決算で28億円の最終赤字を計上したのは、大量の店舗閉鎖により、8億円の減損損失を出したことが大きい。
ブームに乗って勢いがある外食店のFCを展開することは、収益性を一気に高めるチャンスであるが、ブームが去ると経営が一気に傾くリスクを抱え込む。「いきなり!ステーキ」のFC店は悪しき実例となった。業態転換はリスクと背中合わせだ。
幸楽苑HDの業績の低迷はコロナのせいだけではない。新昇社長の“思いつき経営”のトガが出ている。叩き上げは現場から発想するが、高学歴のエリート出身者は、経営理論に基づき頭で発想する。幸楽苑は、高学歴後継者が陥りやすい典型となっている。
稲盛氏が喝破「二世、三世経営者は、商売の原点をわかっていない」
「カリスマ経営者」として知られる京セラの創業者、(故)稲盛和夫氏は、次世代の経営者を育てる経営塾「盛和塾」を主宰してきた。ダイヤモンドオンラインが「稲盛和夫経営講演選集」を公開した(26年4月12日)。そのなかに「二世、三世経営者は、『この質問』に答えられない」という一節がある。
二世、三世経営者は大学の経営学部や商学部を出て、経営をしていくうえで知っているべきことを知らないまま、一流企業を辞めて家業を継ぐケースが多い。息子は後継者として戻るので、いきなり常務や専務という役職に就く。
〈私がそうした人たちに、あなたはどのように経営しているのですか」と質問しますと、「父が昔開拓したお得意先があります。そこからの注文がきて、売上が上がるのです」という答えが返ってきます。
次に、「今はどのくらいの利益が出ているのですか」と聞くと、「少ししか出ていませんが、うちはずっとそういう状況です」と答えます。さらに、「その利益はどうして出るようになったのですか」と聞きますと、「それは知りません。父の代からそうなっています」と答えるのです。
このように、どうすれば売上が増やせるのか、どうすれば利益が出せるのかという根本的なことを、ほとんどの二世、三世経営者が知らないのです。〉
稲盛氏は、こう言っている。
〈経営とはどのようなものなのか。実際には泥臭いものです。それを教えてあげなければ、いくら高等な学問を修めても意味がありません。〉
幸楽苑しかり、大塚家具しかり。多くの失敗した高学歴二世経営者に共通する。
(了)
【森村 和男】
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