G7、気づいてみれば少数派 「黄昏クラブ」と化した広島サミット(後)
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日本ビジネスインテリジェンス協会より、共同通信で台北支局長、編集委員、論説委員などを歴任し、現在は客員論説委員を務める岡田充氏による、G7が世界秩序をリードする役割を終え、「金持ちクラブ」から「黄昏クラブ」と化した背景を分析した論考「G7、気づいてみれば少数派 「黄昏クラブ」と化した広島サミット」(「岡田充の海峡両岸論」に掲載)を提供していただいたので共有する。
戦争継続を確認
米欧諸国にとって最大課題のウクライナ問題はどうだった。5月20日にゼレンスキー・ウクライナ大統領が広島に到着してから、広島サミットはさながらゼレンスキーに「支配された」(インド紙「インディアン・イクスプレス)。
官邸や外務省には、「サミットがゼレンスキー一色になる」と懸念する向きもあったが、まさにその通りになった。先に引用したJNN世論調査で、広島サミットについて岸田の「議長としての指導力を評価するか」との質問に「評価する」が55%と、「評価しない」の26%を大きく上回ったのも、ゼレンスキーの「電撃登場」と無関係ではあるまい。
ゼレンスキー自ら乗り込んだ理由は、戦争継続のため(1)G7主要国に軍事支援の強化を要求(2)インド、ブラジル、インドネシアなど、政治解決を求めるGS諸国にウクライナの立場を理解させる―ことにあった。
第1の目的については、バイデン政権が20日、米国製F16戦闘機のウクライナ供与容認を発表してゼレンスキーの希望に応え、その目的は達成した。首脳宣言も「ロシアの違法な侵略戦争に直面する中で、必要とされる限りウクライナを支援」と、冒頭にうたって戦争継続を確認した。
では新興・途上国側の反応はどうだったか。「グローバルサウス」の代表を自認するモディ・インド首相は、ウクライナ支援を求めたゼレンスキーに対し「紛争解決に向け可能なことは何でもする」と応えた。その一方、「対話と外交が唯一の解決策」と述べ、政治解決の必要を繰り返し、ロシアン軍の即時撤退は口にしなかったのである。
ブラジルのルラ大統領にいたっては22日の記者会見で、「ウクライナとロシアの戦争のために、G7に来たわけではない」と持論を展開するありさま。米国と欧州主導の対ロ制裁を支持しているのは40カ国に過ぎず、GS諸国の大半は政治的解決を主張している。モディ、ルラ両氏の反応を見る限り、ゼレンスキーの新興・途上国への説得は成功せずに終わった。
中国の武器は経済
G7サミットの最中から、ウクライナ危機の仲介外交を担当する中国政府の李輝ユーラシア事務特別代表はウクライナ、ポーランド、フランス、ドイツを歴訪、5月26日にはモスクワ入りしラブロフ外相と会談した。
さらに同じ26日、中国外交部直属のシンクタンク「中国国際問題研究院」は、ロシアとウクライナをはじめ新興・途上国10カ国余りの国際政治学者や識者を招き「平和への道 ウクライナ危機の政治解決の展望」と題して3時間以上にわたるオンライン会議を開いた。
筆者も招かれ参加したが、サウジアラビアや南アフリカ、インドネシアの識者がいずれも紛争の政治的解決を主張したのが印象的だった。同時に、中国の仲介への本気度を感じた。
習近平国家主席は、広島サミット開幕の前日の18日から2日間、陝西省西安で中央アジア5カ国(カザフスタンとキルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)との首脳会議(サミット)を開いた。サミットは「一帯一路」を推進し「中国・中央アジア運命共同体を構築する」とする「西安宣言」を採択。(1)内政干渉に反対(2)エネルギー協力拡大(3)イスラム過激派の脅威に対抗―などで合意した。(写真=西安に勢ぞろいした中国・中央アジア5カ国首脳 中国外交部)
注目すべきは、中国の新興・途上国に対する影響力強化のツールは、貿易の人民元決済を急速に拡大していること。自国通貨に対するドル高で返済危機に陥る途上国にとって経済的「側面支援」でもある。
習は22年12月サウジアラビア訪問と湾岸協力会議(GCC)首脳会議で、原油・ガス輸入代金を人民元で決済する合意を取り付けた。経済制裁によって原油・天然ガスの西側輸出を禁じられたロシアは、中国との貿易の7割を人民元とルーブルによる自国通貨決済にしており、米ドル離れがゆっくりと進む。
国際的な決済ネットワークのSWIFT(国際銀行間通信協会)によると、国際貿易市場での人民元決済の割合は23年3月までの2年間で2%から4%に倍増。ブラジル、アルゼンチン、バングラデッシュのほか、アフリカ諸国でも人民元決済の動きは進む。中国人民元は途上国浸透の武器になっている。
G7のGDPは4割台に低下
広島サミットに話を戻そう。グローバルサウスには世界人口の半数を上回る40億人が住み100以上の国家が属する。一方G7は発足した1970年代半ば、メンバーのGDP総値は世界の6割強を占めていたが、今や4割台に低下した。人口比では世界の10%に過ぎない。経済力と政治的影響力の低下と併せ、今や「少数派」と言っていいだろう。
グローバルサウスはまとまりのある集団ではないが共通点も多い。第1はバイデン政権が米中対立で強調する「民主か専制か」「米国か中国か」など、二元論的な「新冷戦論」には与しない。第2に、「普遍的価値観」としての民主、自由、法の支配など、理念先行の外交ではなく、国益に基づく実利外交追求でも共通する。
むしろ米中対立を利用して、エネルギー、食糧・気候変動問題などで米中双方から経済的支援を引き出すことを利益とみなす傾向がある。彼らを「民主主義陣営に引き込む」という米欧の狙いとは、逆のベクトルが彼らを動かしているのだ。
「西側の身分」誇る日本
岸田はことあるごとに、日本を「アジア唯一のG7メンバー」と誇らしげに口にする。中国の人民日報系「環球時報」はG7外相会議閉幕時に発表した社説で、その「口癖」を次のように表現した。
「(日本は)アジアでG7唯一のメンバーと主張し、アジアで自分の『西側の身分』を突出させることにアイデンティティを見出してきた」。G7メンバーであることが、あたかも「名誉白人」であるかのような錯覚に陥っていると突いたのである。
日本の1人当たりGDPは米ドル換算で韓国、台湾、香港、シンガポールを下回り、世界30位にまで下落した。インドGDPは間もなく日本のGDPを抜く。
世界秩序はもう米一極支配には戻らない。代わって中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカの「BRICS」に代表される多極化秩序にとって代わりつつある。
G7凋落は2008年のリーマンショックの際、新自由主義に基づく金融資本主義の破綻で鮮明になった。広島サミットは、G7凋落と多極化する世界という現実が一層際立つ会議だった。
(了)
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