2024年11月24日( 日 )

今なお持ち続ける経営者の魂 顧客である工務店のため、海外と協働

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(株)イーエイチエル

栄住産業の事業を引き継ぎ、
顧客をサポート

(株)イーエイチエル 代表 宇都 正行 氏
(株)イーエイチエル
代表 宇都 正行 氏

    (株)イーエイチエルの代表を務める宇都正行氏は(株)栄住産業の創業者。2021年に代表取締役会長を退き、その後2年間顧問として栄住産業に携わった。栄住産業は福岡県内でトップクラスの金属防水工事業者として知られており、福岡市東区に本社を構え、営業所は九州から東北まで設置されている。なかでも、栄住産業の開発した「スカイプロムナード」は、自然災害の多発する近年の日本において注目が集まる金属防水技術として、栄住産業を代表する工法となった。

 栄住産業は21年4月1日付で卸売大手・ヤマエ久野(株)(福岡市博多区)に全株式を譲渡し、グループ傘下となった。ヤマエ久野のプレカット製造販売を中心とした木材・住宅資材部門と栄住産業のスカイプロムナード事業。これらの実績が合わさることによる戸建住宅市場でのシェア拡大を見込んで行ったM&Aだった。

 このとき、一部事業については残されるかたちとなり、太陽光発電部門とIT部門は栄住産業で主導することとなった。IT部門は栄住産業の関連会社として設立された(株)ねこ(福岡市博多区)に、太陽光発電の管理に関する事業はイーエイチエルに移された。

 IT部門に比べ、太陽光発電部門は大きくなかったものの、事業は継続していた。現在、全国25カ所の工場や施設の屋上のほか、野立て(土地を借り、直接太陽光発電パネルを設置すること)で太陽光発電パネルを設置。それらのメンテナンスから売電など、管理に関する業務を同社で手がけている。設置範囲は広く、福岡やその近隣のエリアのみならず、栃木県那須市にも案件を抱えている。

那須太陽光発電所
那須太陽光発電所

    昨今、太陽光発電事業をとりまく環境は大きく変化している。再生可能エネルギーに注目が集まるとともに、その筆頭として多くの企業や個人で採用された太陽光発電。しかし、売電価格の大幅な下落による収益性の低下といった課題が浮き彫りになっている。導入にともなう設備投資の金額などは、技術の発展とともに低コストになってきたものの、それでも高く感じる。また、導入に関する手続きも煩雑化したことにより、導入ハードルは格段に上昇している。その一方で、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、住宅で使う一次エネルギーの年間消費量が、概ねゼロの住宅)が義務化。住宅を建設する際にはこの要件を満たしていることが求められ、施主側への負担はますます大きくなっている。

 住宅を取り巻くエネルギー事情は複雑化し始めたが、もちろん、それらのメリットは大きい。従来の家屋ではエネルギー効率が悪く、冷暖房を入れたとしても住宅内の断熱機能が不十分で熱や冷気が逃げ出してしまう問題があった。そのため、いくら電力を使って部屋を快適にしようとしてもその効率は非常に悪い。電気をつくる太陽光発電も、電力をうまく使う住宅も大事であることを宇都氏はこれまでの業界経験から学んでいたのである。

日本人のイメージと異なる、
フィリピンの本当の姿に気づく

 先述した栄住産業のIT部門は21年9月に設立されたねこが担当。フィリピンの現地法人を立ち上げ、事業を展開している。

 栄住産業のIT部門はもともと、国内の小さな工務店向けのサービスを行っていた。規模の小さい工務店にとってはあらゆるコストが大きい。そのうちの1つが見積もり業務だった。100万円以上のコストをかけてソフトを導入したとしても、それを扱うことのできる人材をそろえることが難しい。また、せっかく入社してもいつ離職していくかわからない。工務店はそのような不安にいつも駆られている。この現状を耳にしていた宇都氏。考えをめぐらせていたなかで、以前耳にしていた「フィリピン人の優秀さ」の話を思い出した。

フィリピンのオフィス風景
フィリピンのオフィス風景

    フィリピン人はIT分野への造詣が深く、その能力が非常に高い。そのレベルは日本屈指の大学である東京大学の能力をしのぐほどだという。宝の持ち腐れとなってしまっているソフトをフィリピンに持ち込み、日本の工務店を手助けする事業ができると見た宇都氏は早速事業を興した。まずはフィリピン人を2名ほど雇用。業務を任せてみると、日本人が1カ月以上かけて作成する書類をわずか1週間足らずで完成させた。その力量の高さに驚いたという。また、英語圏であるために、アメリカなどで開発されるソフトの仕様書などをすぐに理解することができ、日本人が翻訳の出版を待っている間にフィリピン人はソフトを使いこなしてしまう。スピード感がまったく異なるのだ。

 この事業は国内の工務店から高い評価を受けた。日に日に案件は増え、規模を拡大する必要が出てきた。人員をさらに集めなければと現地担当者がこぼすと、従業員が自身の親族や友人を紹介したいと申し出た。フィリピンは人口に対して仕事の募集が少なく、人々は常に仕事を求めている状態。優秀な大学を卒業していたとしても就職できるかどうかは確実ではないという。このようにして従業員が1人、また1人と増えていき、現在ではグループ合わせて100人体制となっている。

日本とフィリピンが補完し合い、
発展をしていく

 フィリピンは近年、経済成長を続けている。経済の発展を象徴するかのように、首都・マニラには高層ビルの建設が相次ぎ、最近では地下鉄建設も進み、日本のゼネコンも建設に携わっている。しかしその一方で、従前から続く貧富の差は残っており、ごみの廃棄場で鉄くず探しをする子どもも多い。大きなポテンシャルを秘めた国であり、また、温厚な国民性に宇都氏は魅力を感じている。そんなフィリピンに何か貢献をしたいと、図書館の寄付や校庭整備などを行ってきた。日本とフィリピン、補完し合う関係によって両国の今後の成長に期待しているのだ。

 業界のトップランナーとして培ってきた経験は現在の事業にも活かし、顧客との絆を大切にする。経営者としての魂は今も宇都氏の心に宿り、その情熱は燃え続けている。


<COMPANY INFORMATION> 
代 表:宇都 正行
所在地:福岡市東区箱崎1-8-26
設 立:1990年9月
資本金:1,000万円
TEL:092-732-1075


<プロフィール> 
宇都 正行
(うと・まさゆき)
1944年7月、鹿児島市生まれ。鹿児島経済大学を卒業し、75年9月に栄住産業を創業。76年2月に法人改組し、(有)栄住産業を設立。89年2月に株式会社に改組。2021年4月1日付で栄住産業の代表取締役会長を退任、顧問に就任した。趣味はゴルフ。

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