ワグネル騒動はプーチンの勝利で決着 面子丸つぶれのバイデン(中)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸さらには、アメリカでの報道によれば、ウクライナのゼレンスキー政権と裏取引を重ね、ロシアの軍事情報を横流しすることで、アメリカからも裏金を受け取るような荒技を見せてきたようです。なかでもドンバス地方におけるロシア軍の位置情報をウクライナ経由でNATOに提供していたことが発覚。とはいえ、そうした情報はアメリカがすでに承知しているものだったことも判明しています。
たとえば、プーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻を準備中であることをプリゴジン氏は2021年末にアメリカにコッソリと通報していた模様です。そうした情報を入手したアメリカですが、ロシアの動きを阻止する行動には出ませんでした。というのも、ロシアの軍事行動によって世界的な対ロ経済制裁やロシア封じ込めが加速することになり、ロシアの弱体化につながると判断したためでしょう。
いずれにしても、そうした反逆行為を隠ぺいするためにか、プリゴジン社長は有力な軍事ブロガーやメディア関係者を雇っては、ワグネルを高く評価するような情報を拡散させていきました。そのせいで、ネット上ではプリゴジン氏の人気は急上昇したものです。
これには、さすがのプーチン大統領もはらわたが煮えくり返ったに違いありません。もともと2014年のロシアのウクライナ侵攻の際に、プーチン大統領からの要請で誕生したのがワグネルでした。ロシアには民間の戦争会社は37社ほどあることが確認されています。ショイグ国防大臣ですら、自分の息のかかった軍事請負会社を所有し、国防予算の受け皿として重宝しているほどです。
とはいえ、ワグネルの存在感は突出していました。年間、数千臆ドルの予算を受け取る以外にも、アフリカの金やダイアモンド鉱山の利権を確保し、そこから上がる収益を独り占めしていたからです。数多くのオルガルヒを押さえ、保有資産ナンバー1の地位を占めていました。そうした財力を武器に、プーチン政権の人事や軍事戦略にまで口をはさむようになっていったのです。
プーチン大統領は今回の「正義の行進」と銘打った疑似クーデターをもっけの幸いとばかり、ワグネルとプリゴジン氏のせん滅を決断したものと思われます。そもそも、「正義の行進」とは名ばかりで、事前にそうした工作が進んでいるとの情報はロシア軍部や大統領府も把握していたことは間違いありません。
ロシア南部の要衝ロストフナドヌーからモスクワまでは1,000km余り。交通量の多い高速道路M-4を駆け抜けるのは容易なことではありません。時速50㎞から80㎞の戦車や軍用車両を移動させるのでは時間がかかります。進軍に参加した戦車は200両と宣伝されていましたが、実際には55両だったとのこと。プリゴジン氏は「モスクワでプーチン大統領と直談判を目論んでいる」と述べていましたが、プーチン大統領は一切応じる姿勢を見せていませんでした。
日本を始め欧米諸国では、一連の騒動を「プーチン政権の終わりの始まり」と捉える傾向がありますが、現実はその逆で、プーチン大統領はブリゴジン氏の首を切ることで軍と民間戦争会社の一体化を図り、政権の基盤を強化することになりつつあります。
実は、プリゴジン氏は国防部や海外からの裏金で私腹を肥やしており、今回の騒ぎを受け、ロシアの治安部隊がサンクトペテルブルクにあるワグネルの本社に入り、日本円で50億円を超える現金を押収したとのこと。
このニュースが世界を駆けめぐると、ワグネルの幹部や兵士らの間でもプリゴジン氏への不信感が一挙に高まり、モスクワ進軍に参加した兵士は少人数でした。実は、KGBの後継組織であるFSBではワグネルの動きを事前に察知していたようで、プリゴジン社長の蜂起メッセージが伝わると、瞬時にワグネルの部隊員の家族に対して「息子や夫にプリゴジンのいうことを聞かないように説得せよ」との働きかけが行われたといいます。
そうした素早いけん制行動もあり、ネット上の熱烈なプリゴジン・ファンを除けば、有力な政治家や実業界からはプリゴジン氏を応援するような動きは皆無でした。海外に逃れているオルガルヒからも冷たい反応しかありません。プリゴジン社長が号令を発した「正義の行進」は失敗で幕引きとなりました。ちなみに、FSBのトップはプーチン大統領の元ボディガードのゾロトフ氏です。
要は、この「1日疑似クーデター騒動」の勝負はプーチン大統領の勝利で終わったといえそうです。アメリカの主要メディアをはじめウクライナのゼレンスキー大統領も「これはプーチン大統領の終わりの始まりだ」と、ソ連崩壊に匹敵するかのような「内戦の勃発」への期待を膨らませたものですが、終わってしまえば、絵に描いた餅に過ぎませんでした。
日本でも有名な「ユーラシア・グループ」のイアン・ブレマー代表は「ワグネルはウクライナにおける戦闘より早いスピードでロシアを占領している」と指摘し、「プーチンは終わった」とまで宣言。ツイッター上で100万人を超えるフォロワーを従えるブレマー氏ですが、その予測は簡単に覆されてしまいました。
アメリカ政府は裏でプリゴジン社長を操っていたせいでしょうが、「プーチン政権は崩壊するだろう」と盛んに騒ぎ立てていたものです。ブレマー氏もそうしたプーチン崩壊説に惑わされたのでしょうが、「これはヤバい!」と思ったのか、「戦争ドラマを見続けるには欠かせないポップコーンが品切れになったようだ」と冗談めかしたコメントでお茶を濁すばかり。
事程左様に、アメリカの国務省やCIAなどはプリゴジン氏を裏で操ろうとしていたフシが見受けられます。アメリカの大手メディアを総動員し、「ロシア軍部内の亀裂」や「政権内の反プーチン勢力の台頭」「プーチン政権の終わりの始まり」など、さまざまな偽情報を流しましたが、いずれもためにするものばかりでした。
(つづく)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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