2024年12月24日( 火 )

ワグネル騒動はプーチンの勝利で決着 面子丸つぶれのバイデン(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 何しろ、プリゴジン社長の呼びかけにもかかわらず、モスクワ進軍に加わったのは数千人に満たない戦闘員で、ワグネルの軍事司令官は皆無でした。要は、ワグネルの戦闘員たちのプリゴジン社長への信頼は相当揺らいでいたのです。なぜなら、プリゴジン氏の行動はその場しのぎであることは明白でしたから。あのままモスクワに到着したとしても、多勢に無勢のワグネル部隊であり、ロシアの正規軍やモスクワ警備の治安部隊に簡単に潰されていたと思われます。

 プリゴジン氏はプーチン大統領が展開する海外での戦争に参加する兵士を刑務所からかき集めていました。そのときの口説き文句は「半年間、死んだつもりで前線に出て働けば、無罪放免させる」というもの。

 そうやってかき集めた4万人ほどの戦闘員ですが、高給優遇とはいうものの、現実には極悪な条件下で死者や負傷者が続出。その一方で、プリゴジン社長本人は昨年だけで20億ドルの富を蓄積し、プライベートジェットに飛び乗り、東欧、中東、アフリカに遠征を重ねていました。

 話題満載のプリゴジン社長はサンクトペテルブルクにある水上レストランで、プーチン大統領が招いた外国の賓客をもてなすだけではなく、インターネットのリサーチ会社も立ち上げていました。2016年のアメリカの大統領選挙に介入し、トランプ大統領誕生につながるようなネット上の工作にも暗躍したと自慢しているほどです。
 同様の手口でロシア軍の機密情報をウクライナ軍に横流しし、アメリカ政府からも機密費を分捕っていたと言われています。その分け前が得られなかったため、ワグネルの側近たちの間でも、プリゴジン社長への不信感が広がっていたに違いありません。

 最後の頼みにしていたプーチン大統領からも見放され、裏で手を結んでいたとされるロシア軍のスロビキン副司令官も拘束されてしまいました。結果的には、プーチン大統領が軍部とワグネル以外の民間軍事会社を再統合することになり、これまで以上に強力な権力基盤を手中に収めることになりました。

 こうした想定外の事態に戸惑ったバイデン大統領は記者団の質問に対して「プーチンはイラク戦争で敗北しつつある。NATOが勝利している。日本もそうだ」と、意味不明の発言を重ねています。ワグネルも崩壊し始めているようですが、バイデン大統領の頭もおかしくなってきていることは否めません。すでにウクライナに1,500億ドルもの支援を投入していながら、ロシアを追い返せないのがバイデン政権です。

 とはいえ、2024年にホワイトハウス奪還を目指しているトランプ前大統領の発言にも驚かされます。曰く「俺が大統領に返り咲けば、その日のうちにウクライナ戦争を終わらせる。プーチンと俺はツーカーの間だ」。

 一方、プーチン大統領とプリゴジン氏の仲介の労を取ったとされるベラルーシのルカシェンコ大統領ですが、彼にも隠された思惑がありました。両者と親しいことを自慢している独裁者ルカシェンコ氏ですが、ベラルーシでは悪評が絶えません。そもそも大統領になれたのも不正選挙の結果と言われており、いつ反政府運動で政権の座を追われても不思議ではないわけです。国内の反政府デモの高まりに際しては、プーチン大統領が派遣したロシア軍部隊によってからくも治安維持してもらったほどです。

 その意味では、プーチン大統領に頭が上がりません。今回は、その恩返しとでも言いたいようですが、その立場は微妙です。いまだ収まりを見せない国内の民主化を求める勢力を押さえ、身の安全を確保するうえでも、プリゴジン氏の亡命を受け入れ、彼に従ってくるワグネルの戦闘員に自身の身の安全を委ねようという魂胆が見え隠れしています。

 要は、アメリカもロシアも泥沼から這い上がれないまま同盟国へ支援を求めているわけです。身から出た錆としか言いようがありません。残念ながら、日本も欧米諸国の甘言に乗せられ、アジア版NATOの中心的役割を担おうとしています。今こそ国際情勢を冷静に把握し、太平洋戦争の二の舞を演じることがないようにせねばなりません。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

(中)

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