ビッグモーターの闇(1)保険金不正の底知れぬ闇(後)
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中古車販売大手・ビッグモーター(東京都港区、兼重宏行社長)は、前代未聞の「会社ぐるみの保険金詐欺」で、連日、メディアを賑わしている。売買、車検、修理、板金塗装、損害保険、リースまで、自動車に関することをすべて自社で対応するワンストップで行えることを売りに全国に店舗を拡大してきたが、その裏で、会社ぐるみによる保険金の不正請求が行われていた。
ビッグモーターは非上場企業のため、財務実態は明らかになっていない。どんな会社なのかを調べてみた。最大の転機は、
関西の中古車ディーラー「ハナテン」の買収ビッグモーターは東京都港区の六本木ヒルズに本社を置き、従業員数6,000名、全国300店舗以上、業界最大規模の中古車販売企業。公式サイトには「買取台数は6年連続日本一」「中古車販売顧客満足度No.1」「中古車買取価格No.1」とセールス文句が躍る。
同社は非上場のため財務諸表の公開はないが、『朝日新聞』(7月20日付朝刊)は、〈帝国データバンクによると22年9月期の売上高は5,200億円。17年9月期の約3倍に膨らんだ〉と伝えた。中古車業界の代名詞であったガリバー(東京都千代田区、東証プライム上場)の23年2月期の売上高4,165億円を上回る。
一代で、日本最大の中古車販売企業を育てた兼重宏行社長は、1951年9月、山口県岩国市生まれの70歳。76年、出生地の岩国市で中古車店「兼重オートセンター」を個人創業。78年法人化、80年に社名をビッグモーターに変更した。
最大の転機は2005年、関西の中古車販売店大手「ハナテン」(大阪市)と資本・業務提携して事実上支配下に置いたこと。ハナテンは「8710」という店舗看板を掲げ、「あなた、クルマ売る? 私、高く買うわ」と半裸の女性が視聴者に語りかける、セクシーなCMで名を馳せた。
提携当初は、ハナテンが運営しているカーオークションに自社で買い取った車体を流し売りさばいていたが、この時期からビッグモーターは自身の店舗を拡大し始める。そして16年、ビッグモーターはハナテンの株を100%取得し、完全子会社化した。
「ワンストップショッピング型」の
スタイルで急成長車専門の情報サイトKuruma-takakuuru.net(17年8月)は、ハナテンを完全傘下に収め業界最大規模の車買取業者となったビッグモーターについて「大手他社にない『ワンストップショッピング型』と呼ばれるスタイルを確立」と報じた。引用する。
〈車買取業者の収入源の柱となるのは、車買取と中古車販売であることは言うまでもない。それに加え、オイル交換・修理や車検・保険など、車に関する全てのことに対応することにビッグモーターは拘っている。
簡単にいえば「中古車購入後も全てのことに責任をもって対応しますよ」という「ワンストップショッピング型」と呼ばれるスタイルで、これまでの大手の車買取業者になかった新しい手法だ〉
「ワンストップショッピング型」の手法が急成長をもたらした。今では、ガリバーを抜いて業界最大手に躍り出た。
保険契約のノルマを達成できなければ
罰金が科せられただが「ワンストップショッピング型」のビジネスモデルは不正の温床となった。
水増し請求の発覚当初から、営業ノルマがその温床になっていたと指摘されていた。ワンストップショッピングを取り入れてから保険の代理店業務も行っていて、社員たちは保険契約にノルマがあった。それが達成できないと罰金が科せられた。
『産経新聞』(17年2月26日付)、は異常な罰金システムをこう報じた。
〈同社では全国約80の販売店で、前月の保険販売実績に応じて目標を達成できなかった店の店長個人から10万円を上限に現金を集め、達成した店の店長へ分配していた。産経新聞の取材に同社は昨年(注・16年〉12月、「会社と関係なく店長間で慣習的に行われていた。一切強制していない」と説明した。
しかし、昨年6月に全社員宛て送られた兼重社長名での社内メールでは、「保険選手権大会に関して」とのタイトルで「罰金を払うということは、店長として仕事をしていないということだ!」「罰金を払い続けて、店長として(中略)恥ずかしくないのか!」などと記載されていた〉
ノルマが昇進・昇給を左右するのは普通だが、ノルマを達成できないと罰金としてカネを巻き上げるとは初めて知った。組織的不正が行われたのは保険だけだろうか。今、元幹部社員、現役の幹部社員による告発がメディアに相次いでいる。
宏行社長の息子、宏一副社長にバトンタッチできるか
ビッグモーターが上場会社のハナテンを買収したことで、財務状況の一端を垣間見ることができる。ハナテンが「親会社等状況報告書」を東証に提出していたからだ。
それによると、親会社のビッグモーターの15年9月期の売上高は1,056億円、純利益は33億円。22年9月期の売上高は5,200億円、ハナテンを買収して7年間に売上高を5倍に伸ばしている。急成長の歪みが不正をもたらしたということだ。
資本金は1億円。兼重宏行社長が発行済み株式の77.69%を保有しており、実態はワンマンカンパニーだ。損害保険の不正請求を受けた損保の1社、損害保険ジャパン日本興亜が6.89%を保有する第2位の株主だ。
取締役に、兼重宏行社長の息子・兼重宏一氏が社長室次長(15年当時)の職名で名を連ねている。1988年7月生まれて、今年35歳。早稲田大学卒業で、15年に海外でMBA(経営学修士)を取得。現在は副社長。18年頃から宏一氏が社長業を任され始めてから、MBA仕込みの数字を求められる不正が横行していったと指摘されている。高学歴な2代目が陥りがちな典型的なパターンだ。
宏一氏が父親の宏行氏の後を継いで社長に就くのは規定の路線だったが、会社ぐるみの保険金詐欺で、親子とも経営責任が問われている。バトンタッチができるだろうか。
(了)
【森村 和男】
法人名
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