建設業の人手不足問題 そのメカニズムと解決の糸口(前)
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建設業就業者数の激減
我が国の建設業は今、深刻な労働力不足に直面している。2022年度の建設業就業者数は、ピーク時である1997年の7割弱となる約479万人。うち、工事の直接的な作業を担う技能労働者は約302万人で、25年間で153万人(33.6%)も減少したこととなる。
思い返せば、日本が戦後の焼け野原から「奇跡」の高度成長を遂げ、世界第2位の経済大国になったのも、旺盛な建設需要とこれに応える豊かな労働力があってのことだった。
バブル崩壊後、日本社会は長い「平成不況」に突入し、建設投資は激減。同時にそこに従事する人々の数も減少していった。そして、東日本大震災を経て建設需要が再び増加に転じてからも、働き手は戻ってこなかった。それどころか、ますます減少していったのだ。求人倍率の推移を一瞥しても、この業界が近年、労働者の確保にいかに苦慮しているかがよくわかる【図1】。
今あちこちの大都市で、大型建設プロジェクトをともなう再開発が進行中である。コロナで減退した国内景気も回復の兆しを見せ始め、住宅建設投資なども少しずつ増加すると予測されている。だが、人手が集まらないことには、その見通しも絵に描いた餅となろう。
少子高齢化の進行
そもそも、「建てて終わり」ではないところに、建設業の本分はある。自然災害の多い国土であればこそ、既存のインフラや建築物の維持修繕という観点からも、この業界にはますます多くのマンパワーが必要になるのは間違いない。それも、すべての年齢層の労働者をバランス良く擁し、技術の継承と革新を絶えず続けていく必要があるが、困ったことに、建設業は全産業のなかで最も少子高齢化が進行した業界の1つでもある。
55歳以上の割合は2006年に3割を超えた。その後も高齢化は進み、今や2.8人に1人(35.9%)が55歳以上という状況だ。一方で、若い世代の割合はどんどん縮小している。25年前には22%のボリュームがあった29歳以下の就業者は、今や11%前後で推移したまま、再び上向く気配もない【図2】。
国交省によれば、技能労働者の4分の1に当たる77.6万人が60歳以上という。これら熟練労働者の大半が、向こう10年程度で次々引退していくことが見込まれ、早くも25年には90万人もの労働者不足に陥るといわれる。
低賃金・長時間労働の常態化
この状況は、「最近の若者は」という一言で片づけられる問題ではない。実際、建設業への入職者数が回復しない原因として、労働環境の悪さが指摘されてきた。
厚労省の統計によると、22年における建設業の年間実労働時間は1,986時間、出勤日数は240日。調査した全産業の平均(1,718時間、211日)からしても、製造業のそれ(1,912時間、226日)に比べても、かなりの長時間労働であることがよくわかる。我が国はここ10年、全産業で労働日数は減少傾向にあるが、その減少幅も建設業は12日と、全産業平均(17日)に比べてずいぶん小さい。
国交省が今年5月に公表したアンケート結果からは、「4週8閉所」――すなわち週休2日を実現している企業は2割以下で、3割は「4週4閉所」=週休1日もしくはそれ以下で稼働していることが明らかになった。世の流れに反し、この業界は依然として休暇を取りにくい労働環境にあるわけだ【図3】。労働死亡災害が毎年、全産業中最多の300件前後発生し続けていることも、長時間労働とまったくの無関係ではあるまい。
それでいて、現場の工事を担う労働者の収入は低い水準のままである。厚労省によれば、19年における建設業男性生産労働者の年間賃金総支給額は約462万円。20年前に比べれば70万円近く上昇し、他の業種との年収格差は縮小しつつあるとはいえ、全産業男性労働者の平均(561万円)からすれば、まだ100万円も低いのだ。
しかも、技能労働者の3人に2人は、その月の仕事量に応じて額が変わる日給月給制で暮らしているといわれる。危険と隣り合わせの職場で長時間労働、その報酬は低くて、しかも不安定となれば、家族をもつ働き盛りはもちろん、若い世代が敬遠するのも無理はない。
こうして生産労働者は減っていき、それゆえ人手不足となって、ますますの長時間労働と入職者減少とが引き起こされるという悪循環に、この業界はすっかりはまり込んでいる。だが、そもそも現場の労働者たちはなぜ、こうも長時間労働・低収入が定着してしまっているのか。
(つづく)
【黒川 晶】
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