2024年12月22日( 日 )

露店商文化 日本人が誇るべき伝統、そして心の故郷

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150万の人出を記録、2022年の筥崎宮放生会

 筥崎宮放生会を華やかに彩るのは、何といっても参道に立ち並ぶ数々の露店だろう。その数約500店。金魚すくいに始まり、たこ焼き、焼きそば、かき氷などの店に加え、筥崎宮名物の杜日餅、新生姜売りなど、ありとあらゆる店がそろっており、眺めているだけでも心踊る。露店は西日本一の祭りに相応しい賑わいの原動力だ。

(一財)筥崎宮露店保存会
代表理事 石橋 一海 氏

    この露天商たちを一手に取り仕切るのが、(一財)筥崎宮露店保存会である。21年まではコロナ禍の影響で博多の三大祭りである「博多どんたく港まつり」「博多祇園山笠」「放生会」のいずれも中止になっていたが、22年は満を辞して再開の運びとなった。例年以上に賑わった筥崎宮放生会について、代表理事の石橋一海氏はその手応えを次のように語る。

 「いつもはおよそ100万人の参拝者数ですが、昨年は実に150万人の方々にきていただくことができました。皆さんがどれだけ放生会の再開を心待ちにしていたかがわかる数字ですが、私たちにとってはその参拝者数以上に、大きな手応えを感じた放生会でした」。

時代に求められた、運営トップの誕生

約150万人が訪れた2022年の放生会
約150万人が訪れた2022年の放生会

    筥崎宮露店保存会は2010年、参道に出店する露店商約400店によって設立された。筥崎宮放生会の長い歴史から見れば、まだまだ新しい組織だ。

 「放生会には私たち筥崎宮露店保存会をはじめとした3団体が関わり、祭りの成功に向けて活動しています。筥崎宮露店保存会は露店の維持発展、そして祭礼の隆盛を目的として、祭りの実務では出店場所の指定・配分や安全衛生、労務管理の指導を行っています」(石橋代表)。活動は放生会の時期に限らず、神社境内の清掃活動の推進や祭事に関する広報活動など、筥崎宮放生会の発展に欠かせない重要な役割を日常的に担っているのが保存会だという。

 石橋氏が代表理事に就任したのは21年。保存会が法人化した際から、理事としての仕事に携わってきたが、筥崎宮放生会との関わりはさらに遡り、すでに30年を超えるという。石橋氏は、電気工事事業者として放生会での露店設置の業務に携わってきたのだという。

 「その縁で法人化に向かって動き出した際に理事就任のお話をいただき、当初はその役職を務めておりました。そして一昨年にほかの理事の方より代表理事の就任の打診があり、私でお役に立てることがあるなら、と3代目代表理事をお引き受けした次第です」(石橋代表)。

 そうして、露天商の出身者ではない代表理事が誕生した。重責であると同時に、露天商まとめ役の歴史において、ずいぶんと異質な存在であったに違いない。しかし、時代は必然的に同氏のような存在を求めていたようだ。

誇れる存在であるべき、露天商文化

 露天商出身者でないからこそ、円滑にやり遂げられることもある。一例を挙げるなら、福岡県警の指導の下で健全性をしっかりと守っていくことなどは、自分に与えられた使命の1つだと石橋氏は語る。

 「筥崎宮露店保存会の法人化にあたり、一番の要とされたのがコンプライアンスでした。法令遵守にとどまらず倫理観、公序良俗などの社会規範に従い、公平公正に業務を推進していこうというものです。暴力団の排除をはじめ、あらゆる事柄に関して厳正なチェックを受けて一般財団法人として発足したわけですが、その理想の上に私への任命があったのだと思います」。

 続けて石橋代表は、「筥崎宮露店保存会の定款には『我が国の文化である露店の維持発展を目標とする』とあります。長い日本の歴史のなかで培われてきた露店商文化は、日本人が守らなければならない伝統、そして心の故郷です。だからこそ誰に対しても誇れる存在でなければならない。時代の変化とともに常に自分たちを振り返り、磨き上げていくことが欠かせないでしょう。その意味で保存会は、大きな役割を果たせると考えています」。

 天武天皇の時代に始まった放生会という一大文化は、それぞれの時代において使命感をもった人間たちがいたからこそ、絶えることなく連綿と受け継がれてきた。コロナ禍が終息したことで、世界中から多くの人たちが日本を訪れるようになった今、世界が日本の文化や伝統に注目している。筥崎宮露店保存会の存在感も、これからさらに大きくなっていくだろう。私たちも博多の伝統行事としての筥崎宮放生会の未来、そして保存会の仕事ぶりをしっかりと見守っていきたい。

【天野 祐次】


<INFORMATION>
(一財)筥崎宮露店保存会

代表理事:石橋 一海
所在地:福岡市東区箱崎2-25-1
TEL: 092-633-3355


<プロフィール>
石橋 一海
(いしばし・かずみ)
石橋 一海 氏1942年上海生まれ。幼少期に大陸から引揚げて福岡・八女に。高校卒業後、小野田セメントに入社。25歳で退社し「角栄計装」を設立。72年に同社を退社し、新たに「石橋電業社」を設立。88年に同社倒産、事業を引き継いだ「エヌビーエス(株)」に入社。92年代表取締役社長就任。2018年に退任し顧問に就任。現在、(株)JEC代表取締役と筥崎宮露店保存会理事長を兼務。

≪ 筥崎宮放生会

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