2024年12月22日( 日 )

豊肥本線の現状と活性化に向けた今後の課題(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

運輸評論家 堀内 重人

 豊肥本線は、熊本と大分を結ぶ九州を横断する路線である。2016年4月の熊本地震で被災し、20年8月に全線で運転を再開しているが、昨今では高規格道路の整備が進み、かつて1日に3往復あった熊本~大分間の特急は2往復に削減されるなど、このまま何もしなければ、都市間連絡の機能はバスに奪われ、同線はローカル輸送だけを行う路線に成り下がる危険性もある。幸いなことに、阿蘇には観光資源が豊富であることから、同線は昔から観光路線として観光列車を運転してきた歴史がある。本稿は、豊肥本線の地域輸送と優等列車などの現状について説明し、観光路線へ脱皮させる方法を模索したい。

観光列車の運行状況

 熊本地震前は、阿蘇山への観光客の誘致を目的に、毎年、3~11月までの土日・祝日および夏休みなどの学校が長期休暇となる期間は、熊本~宮地間に、観光に特化した専用車両を使用した臨時列車が運行されていた。

 1988年3月からは、ジョイフルトレインを使用した臨時急行「サルーンエクスプレス阿蘇観光号」の運転が開始した。そして同年8月28日からは、アメリカの西部開拓時代風に改造された客車を、大正生まれの8620形SLが牽引する「SLあそBOY」の運転が始まった。しかし、「SLあそBOY」は、毎年3月~11月に運転されたが、SLの老朽化が原因で、05年8月に運休となった。

 「SLあそBOY」の代替として、06年7月22日からは、内装や外観を昭和30年代のイメージに改造した気動車2両を使用して、臨時快速列車「あそ1962」が運行を開始した。この列車は、車内では昔のCM放映や阿蘇の特産品および駄菓子の販売を行ったが、老朽化した車両を改造したため、10年12月26日で運行を終了した。

 11年6月4日より、観光特急「あそぼーい!」が運行を開始したが、熊本地震の発生で他地域での運行を経て、17年7月より阿蘇~大分間で運行を再開したが、主に土日・祝日や学校が長期休暇となる時期を中心に、1日に1往復である。それ以外の日は、同一時刻で「九州横断特急」として、キハ185系という普通の特急用気動車を用いて運転された。

 「かわせみ やませみ」は、観光特急用にリニューアルされた専用のキハ147形気動車が、全車座席指定の特急として運行される。

今後の豊肥本線の課題

 先ずは「九州横断特急」に使用されるキハ185系気動車の老朽化が進んでいることに加え、性能的・居住性で見ても、急行列車並みであることから、特急列車に相応しい車両とはいえない。

 JR東海が、特急「ひだ」「南紀」にハイブリッド気動車を導入して、電車並みの高性能と居住性を維持している。またJR九州も、長崎地区などで、ハイブリッド気動車を用いたローカル列車が運転されており、「九州横断特急」以外に特急「ゆふ」で使用するキハ185系気動車を、ハイブリッド式の車両へ置き換える必要がある。その際、豊肥本線には急カーブもあることから、振り子機能も付与した車両にして、スピードアップを図る必要がある。

 現状では、特急「あそぼーい」と比較すれば、「九州横断特急」は車両に魅力がない。車両を高性能で高アコモ化(車内の設備を刷新すること)した新型の気動車を導入し、一部に自由席を設けて、区間利用者にも対応するようにしたい。

 熊本~大分間を結ぶ特急バス「やまびこ号」が、通路を挟んで1-2の横3列の座席配置で(写真3)、座席にはコンセント完備され、トイレも備わる。九州産交のバスは、スーパーハイデッカー車で眺望も良い上(写真4)、所要時間では「九州横断特急」のほうが1時間早いが、特急バス「やまびこ号」は、運転本数が1日に5往復あるのに対し、鉄道は特急が2往復しかないため、価格面で割安なバスへ流れてしまう。

写真3 特急バス「やまびこ号」は座席は横3列のゆったりした配置
写真3
特急バス「やまびこ号」は座席は横3列のゆったりした配置
写真4 九州産交のバスはスーパーハイデッカー車を使用
写真4
九州産交のバスはスーパーハイデッカー車を使用

 長らく熊本~大分間を直通する特急は、1日に3往復運転されていたことや、宮地~豊後竹田間を活性化させる必要性から、787系「つばめ」型電車と同等の車内設備をもつ新型のハイブリッド気動車を開発して、観光特急的な要素を強めた車両で、活性化を図りたい。

 また熊本~宮地間の観光列車の運転を充実させる以外に、別府・大分~豊後竹田間にも、観光列車を設定することで、豊肥本線の活性化を図りたい。

 さらに南阿蘇鉄道が全線で運転を再開したこともあり、熊本~高森間を結ぶ特急列車を、1日当たり2往復程度設定することで、観光客を誘致しやすくなり、豊肥本線と南阿蘇鉄道の両方の活性化が可能となる。

 地域輸送に関しては、大分~三重町間は、大分市の近郊区間であり、朝夕は30分間隔の運転の実現と、電化も検討する必要があるといえる。

 筆者が23年7月20日に乗車した際の感想を述べる。熊本地震で立野~阿蘇間の線路が崩壊したが、理想を言えばこれを現状で復旧させるのではなく、立野からループ線を建設して、スイッチバック運転の解消を図るだけでなく、曲線も緩和してもう少し高速運転ができるようにする必要があると感じた。「災い転じて福となす」という発想で路線の改善が必要ではなかったろうか。豊肥本線には、JR九州が誇る「ななつ星in九州」も運転されることもあり、スイッチバック運転を温存した状態では、運転を行う上でも支障である。

 今後の豊肥本線の在り方としては、地域輸送をしっかりとやりながら、観光路線へ脱皮を図る必要がある。

(了)

(中)

関連キーワード

関連記事