2024年11月24日( 日 )

日米韓首脳会議の成果と今後の課題:難問山積

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、8月25日付の記事を紹介する。

日米韓 イメージ    8月18日、メリーランド州キャンプデービッドで開催された「日米韓3カ国首脳会議」は国際会議の場を利用するのではなく、独立したかたちで開催される初めての試みでした。バイデン大統領にとっても就任以来、キャンプデービッドで外国の要人を迎えるのも初めてのこと。そのため、「歴史的出来事」と自画自賛したものです。

 とはいえ、3カ国各々の国内政治事情が色濃く反映されており、その成果は「歴史的とは程遠いものであった」と言わざるを得ません。というのも、バイデン大統領は高齢の影響もあり、国内での支持率は急落し、来年の大統領選挙を控え、選挙活動そのものも活気を欠いたままです。ハワイのオアフ島での史上最悪の山火事という緊急事態に対しても何ら国民が期待するような支援策を打ち出せていません。しかも、息子や身内のスキャンダルに足をすくわれ、いつ政権を追われても不思議ではない状況にあります。

 日本政府はトランプ前大統領の復活の可能性に備えて、その際のインパクトを分析し始めています。その点、日本も韓国もトランプ時代の「アメリカ・ファースト」に翻弄された苦い経緯を忘れてはいないからです。

 他方、アメリカとすれば、今回の3カ国首脳会議をきっかけに、バイデン政権にとっての支持率の回復を期待したうえで、日韓の囲い込みのためにも、3カ国首脳会議の定例化を提案し、受け入れられました。今後の経済成長が期待できるアジア地域への影響力を高めるために、日本や韓国を味方につけようとする思惑が垣間見えます。

 岸田首相も身内や側近の不祥事に加え、マイナンバーカード問題やガソリン価格高騰への対応不足で支持率は危険水域に突入。ユン大統領も対日融和策は国民や野党からの納得を得られないままで、岸田首相と同様、支持率は20%台に落ち込んでいます。三者三様に国内問題に足を引きずられるなか、外交に活路を見出そうとしているのですが、昼食会を含めてこのわずか2時間ほどの首脳会議を通じて、支持率回復につながるような成果を期待するのははなから無理な話でしょう。

 なぜなら、3カ国の首脳はいずれも自国内の課題を克服することを最優先し、そのために自国以外の2カ国の経済力や軍事力を引き出すことを模索しているからです。そこで、共通の課題として北朝鮮や中国、はたまたロシアやウクライナ問題を議題にし、3カ国の安全保障面での連携強化を打ち出すことになりました。

 そもそも、ホスト国のアメリカはエマニュエル駐日大使がいうように、「日米韓の連携強化によって中国や北朝鮮の脅威を取り除く。そうすれば中国に対して強い立場を確立できる」というわけで、軍事力をテコに中国、北朝鮮、ロシアと対峙する意向です。日本と韓国への軍備や最先端技術の売り込みを狙っており、結果的に、自国の軍事産業を支援することになるという強かな腹積もりに他なりません。

 結果的に、日本はアメリカと共同で極超音速ミサイルを撃墜できる新型のミサイルGPIを開発することで合意に至りました。これはアメリカのノースロップ・グラマンとレイシオン両社が8年前から対日売り込みを展開させていたもの。日本政府から新たな防衛予算が注入されることになり、日本側のカウンターパートである企業としても願ってもない話といえそうです。

 加えて、日本は福島の汚染処理水の海洋放出への理解と後押しをアメリカと韓国から得ようと必死でした。そのおかげで、日本政府は福島の汚染処理水を8月24日から海洋放出し始めることができるようになったわけです。また、韓国は北朝鮮からの軍事的脅威を回避するため、アメリカとの核共有ならびに自前の核兵器保有への可能性を模索しました。事程左様に、3カ国首脳会議に臨む日米韓の首脳の思惑はバラバラ状態に他なりません。

 そのため、準備に携わった3カ国の事務方も共同宣言の言葉選びに苦心するばかりで、アジア太平洋地域の安全や繁栄に向けての実行可能な政策提言を打ち出すまでには至りませんでした。岸田首相に同行した政府関係者も、包括的な「キャンプデービッド原則」や共同声明も、「法の支配に基づく国際秩序の重要性」や「核不拡散への取り組みを強化」など聞き慣れた文言を謳うのみで、歴史的と評価できるような成果は皆無と言わざるを得なかったのです。

 そのため、日本や韓国での報道とは裏腹に、アメリカのメディアはほとんどがスルーしてしまいました。いずれにしても、岸田政権は福島の汚染処理水の海洋放出にアメリカのお墨付きを得るために、倍増を決めた防衛予算の相当部分をアメリカからの新型ミサイル技術の導入に費やすことになったことは間違いありません。

 次号「第354回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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